針飛びの話続きます。汎用機で使われるバルジュー7750ベースのムーブメントでも、高級機によく使わえれるフレデリック・ピゲ(FP)1185でも現象は違えど、分針をあわせるときに気をつかう、針飛びという現象が起きることがあります。 下世話な話ですが、バルジュー7750は、「汎用機」とはいっても定価でいうと最低でも20万円くらいではないでしょうか。高級機では50万円以上はします。フレデリック・ピゲ製のFP1185を採用している高級クロノグラフの場合、ほとんどの定価は100万円以上です。ちなみにFP1185を採用しているメーカーは、ブルガリ以外にも、ヴァシュロン・コンスタンタン、オーデマ・ピゲ、ブレゲ、カルティエ、ブランパン、など、錚々たるものです。 バルジュー7750とフレデリック・ピゲ1185との大きな違いは以下になります。 1. バルジュー7750 … 設計のプライオリティは、信頼性、メンテナンス性の高いクロノグラフ。薄さおよび操作感は対象外です。 2. フレデリック・ピゲ1185 … 設計のプライオリティは、信頼性もさることながら、薄さ及び操作感、つまり高級機です。 優秀な設計者が、初期の設計目標を達成するのはよくあることです。しかし、それがその初期の設計目標を達成し、そのマーケットでその地位を確立しつづけるためには、その初期設計が優秀であると同時に、その設計をたえまなく改善させるモチベーションが必要です。 スイス時計産業にはその仕組みがあります。優秀な設計のムーブメントは、いろんなメーカーの時計で使われ、そのフィードバックによって継続的に改善されていきます。バルジュー7750でいえば、(筆者が所持したことがある時計のなかでは)ブライトリング、ロレックス、IWCによるチューンは群を抜いて良好です。フレデリック・ピゲ1185はもともと高級機向けですから、どこのメーカーによる時計でも高級機ですが、各メーカーからのフィードバックによって、その地位を確立し続けています。 裏を返せば、このことは、10年、20年というスパンで、信頼性のある機械式時計のムーブメントを設計することがどんなに難しいかということを物語っているともいえるのではないでしょうか。
随分と久し振りですが、今回は、分針の針飛びの話、その続きをしましょう。機械式時計は、普通のクォーツ時計と違って、使用上の注意があります。かなり高価なのに、その上いろいろと気を使わないといけない、それが機械式時計なのです。 今回取り上げるのは、ブルガリの名機、ディアゴノ303です。ジュエラー、ブルガリは最近は時計にも力を入れていますが、このディアゴノ303はクロノグラフのフラッグシップモデルです。そしてベースのムーブメントはこれも名機のフレデリック・ピゲ(FP)の1185です。FP1185は、薄型クロノグラフを目指して設計してあり、高級クロノグラフに大変よく使われています。この薄型化のために、セイコーが開発した垂直クラッチ機構を、現代的に再設計したムーブメントとしても有名です。ブルガリは、このムーブメントをもとにチューンを施しキャリバー BVL303としてディアゴノ303に搭載しています。スペックは、21600振動(3Hz)、37石、直径 26.2mm、高さ5.5mmと、わずか5.5mmに3レジスタのクロノグラフ、デイト機構を組み込んであります。 さて、この高級ムーブメントにも分針あわせのときに針飛びが起きます。11時5分にあわせようと思ってリューズを引きます。そして押しこむと、見事に分針が1分ほど動いてしまいました! これはブルガリだけでなく、FP1185をベースに採用している高級クロノグラフについての、ムーブメントの癖とでもいうべきものです。ちなみに実は、筆者はこのFP1185ベースのクロノグラフの分針調整が得意です。コツは、戻しあわせで、そっと押しこむことです。 ムーブメントの癖を見抜いて、使いこなすというのも機械式時計の楽しみの一つと言えるかもしれませんね。
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