もう少し針飛びの話を続けましょう。前々回で少し書いたのですが、なぜ針飛びというのが起きるのでしょう?実は、ほとんどの手巻きのヴィンテージ時計には、針飛びという現象は見られません。針飛びという現象は、自動巻機構を内蔵した、比較的新しいムーブメントに多いのです。
機械式時計は、ゼンマイを動力として動きます。そして、歯車が規則正しく動いて時刻を表示します。ごく昔は時計を持っているのは一部の貴族のみで、庶民は教会の鐘の音で時刻を知っていました。それが、携帯できるよう腕時計という形になった当初でも、ゼンマイに手で巻いて動力を与え、時分秒が分かれば、それで御の字でした。しかし、時と共にいろんな機構が追加されるようになります。
- 秒表示: 6時位置のスモールセコンドではなくセンターセコンド
- ゼンマイの巻き上げ機構:手巻きではなく、自動巻
- 日付表示
- 曜日表示
- クロノグラフ
- 第二時間帯表示(GMT)
- 日付のクイックチェンジ
- ムーンフェーズ
- …
クォーツのデジタル時計でしたら、それに相当するプログラムを書くだけですので、これらの機構はすべて比較的簡単に実現ができます。一方機械式時計の場合、これらの機構は、それぞれ別の機械的な仕組み、歯車やバネ、レバー、コラムホイールなどの仕組みで実現する必要があります。これには物理的に面積が必要になります。その一方で、時計の大きさというのはある程度決まっていますので、設計のターゲットが、どのようなケースに入れるのか、どのような機能を実現するのか、量産機なのか高級機なのかによって変わってきます。
機械式時計の面白いところがまたこのあたりにあります。値段が高いから、故障も少なく頑丈というふうにいちがいには言えない、ということです。逆に値段が高い高級機の場合、量産される数も少なく、皆が皆使うというわけではなく、大事に使ってくれることを前提としており、普及期よりも華奢な場合があります。高級なドレスウォッチで30m防水というのはよくある仕様です。一方で2万円程度で入手できるセイコー5は基本的には100m防水です。どちらがいいということではなく、これはそれぞれの設計ターゲットがそもそも違うということなのです。
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