腕時計とそれを取りまく世界 Since Apr 2012

Month November 2013

機械式時計はなぜ動くのか? その1

今日から新シリーズを起してみます。まだまだ私には今一つ機械式時計の動く仕組みというのがよく分かっていないような気がしているのです。現在のゼンマイ式時計の仕組みは、ほぼ18世紀中頃に確立された仕組みと同じです。250年以上の前も仕組みなわけですが、これをうまく調整すれば一日+-5,6秒という驚異的な精度を叩き出します。この精度はちょっと良すぎではないでしょうか。 クオーツは32KHz、一秒間に32000振動もするから、機械式時計よりも圧倒的に精度がいい、とモノの書籍にはよく書いてあります。通常のクオーツ時計の精度は月に10〜20秒程度の誤差です。一方で機械式時計はハイビートと呼ばれるものでも10振動=5Hzでしかありません(時計の世界では、振動数という定義が少し違っています)。ところで、32KHzと 5Hz、6400倍もの差がありながら、クオーツおよび機械式時計の精度の差はおおよそ数十倍程度です。クオーツが悪いというより、機械式時計のほうが古い仕組みにも関わらず、どうも良すぎではないでしょうか? また薄い時計と厚い時計、時刻あわせの時の針飛びについても言及してきました。この使い勝手に大きく影響してくるのが、いわゆる二番車の配置なのですが、これを説明するためには、機械式時計の仕組みにもう少し言及したほうが分かりやすいようでもあります。 画像は1968年の手巻きスピードマスターとキャタピラブレス。キャタピラブレスと言われるものは、いわゆる巻きブレスと言われるタイプのブレスの一つです。無垢ではなく、板を曲げて作ってありますので、軽いです。軽いのはいいのですが、手巻きとはいえ時計本体が重いクロノグラフには、すこし華奢な感じも受けます。ゆるくブレスを巻くのがお好みの方には、ヘッドが時々つられるような感じを受けるでしょう。ただ個人的にはスピードマスタープロフェッショナルを一番格好よく見せるブレスと思っています。

機械式時計のどこがいいのか? その34

やはり機械式時計は機械式なのです。ゼンマイで動力を与えて、歯車を複数動かし、そして、何らかの目的にあった形で時間を掲示するのです。その大きな流れが軍用とドレス用です。以下の写真はパネライルミノール47mmとオーデマピゲのヴィンテージ、VZSSc 36mm です。 果してどちらが高級時計に見えるでしょうか?もちろん、パネライルミノールもかなりな高級時計です。しかし、どちらかといえば、やはり高級に見えるのはドレス時計のオーデマピゲではないでしょうか? そもそもの目的が違うので、この二つを比べるのはすこし無理がありますが、パネライは、イタリア海軍の軍用時計をモチーフに頑丈さ、防水性、精度を追求しており、ラグジュアリースポーツという新しい系統に属します。これはそもそもはオーデマピゲのロイヤルオークによって開拓された分野で、パネライが現在先陣を切って開拓している分野といってもそうは間違っていないでしょう。 一方の名機の誉れ高いオーデマピゲのVZSScです。素晴しいムーブメントを搭載しており、仕上げはもちろん、精度も当時のクロノメーター級です。1950年代の時計ですが、現在でもかなりの高精度を維持しています。一方でお世辞にも頑丈とはいえません。また、防水性もほとんどありません。 やはりムーブメントが時計の形を決める部分はかなり大きいのです。パネライのムーブメントでは、ドレス時計を作るのは至難の技でしょうし、一方のAP VZSScは、間違っても数を量産できるムーブメントではありません。現代でもオーデマピゲAP2121など仕上げの卓越したムーブメントの量産数量は限られており、故障時の代替部品の迅速な供給が求められる軍用などのハードな用途に使う時計にはまず向いてはいないでしょう。

機械式時計のどこがいいのか? その33

腕時計なんて、少しくらい厚くたっていいじゃん そのお気持ちもよく分かります。大きく格好良く厚くしっかりしている時計もたくさんあります。 防水性能は300m、クロノグラフが付いて、デイト付き、デイトはいつでも変えることができて、パワーリザーブは3日、いいですよね。頑丈で、いつでもどこでも信頼して使うことができます。 もちろん私もそういう時計もかなり好きです。しかし一方、腕時計はその構造上、外側の体積密度が高くて(密)、内側の体積密度が低くなります(疎)。外側は防水のためにステンレスや金などをはじめとする金属で覆わなければいけません。一方その中空の中身には歯車が稼動するムーブメントが入ります。稼動部分がある以上、どうしても内部を金属で100%満たすわけにはいきませんから、密度的には疎になってしまいます。 ということは原理的にはムーブメントが大きく厚くなればなるほど、時計の重心は高くなってしまう傾向が出てきます。大きくしっかりした時計を腕につけるとひっぱられる感じがします。そうなってしまうと付け心地がそれ以上悪くならないためには、時計をホールドするベルトをしっかり作る必要があります。となると、これでブレスもしっかりした重量のあるものになってきます。 「ムーブメントの厚さ」 一言にいえばたいしたことなさそうに見えますが、実はこれはかなり深いテーマなのです。元々のムーブメントが厚いとどうしたってその時計は薄型にはなれません。しっかりとした厚いムーブメントをしっかりホールドする土台、ケース、さらに厚いケースをしっかりホールドするブレスレット、こういう時計になってしまいます。 画像は PAM00372。パネライごく初期のプロトタイプ復刻です。ラジオミールケースにルミノールのリューズという独特の形状です。パネライはイタリア海軍の軍用時計がルーツですから、しっかりと作られている時計の代表格といってもいいかもしれません。

機械式時計のどこがいいのか? その32

さて時計の中心軸の周りに回転する歯車が多いと、どうなるでしょうか?当然ながら、時計が厚くなる傾向が出てきます。4枚の歯車と2枚の歯車、おそらく2枚の歯車のほうが薄く作りやすいでしょう。しかも時計の歯車の場合、カナと呼ばれるギア比変換用の歯車も一体整形されているものがあります。画像は時計三昧さんからです。 時計の場合、秒針->分針の回転数変換は1:60、さらに分針->時針の回転数変換も1:60です。つまり、秒針の歯車が60回回転した時に、分針の歯車が1回回転すればいいわけですから、歯車の歯の数は、秒針1に対して分針は60でなければいけません。これを二枚の歯車で実現しようとすると、実はかなり大変です。 歯車の大きさが同じだとすると、円周の長さは半径に比例しますから、半径が60倍大きな歯車が必要になります。例えば1mmの半径の歯車があったとして60倍になると60mmです。歯車だけで腕時計よりも大きくなってしまいます。このため、秒針->分針の変換にはカナのついた歯車が二枚介してあります。そして、このような「カナ」を持つ歯車が一枚一定箇所に集中すると、また厚さが増えてしまう傾向が出てきてしまいます。 そんなに厚い時計が嫌なら、部品を薄く作ればいいじゃん。 ごもっともな意見です。例えば極端な話、現在の最新半導体プロセスを使えば、髪の毛の1/100の薄さの部品だって作れます。しかしながら機械式時計の場合、メンテナンスをしなければいけません。髪の毛の1/100の薄さのものの耐久性が100年もあるのかどうか、また、部品がなくなった場合、どうやって制作するのかということを考えると、やはり手で作れる程度の大きさの部品であるというのが、現代の機械式時計には必須の条件になってきます。しかも、耐久性のことを考えると、やはり厚い部品のほうが望ましいのです。 ということでやはり、手で作れる程度の大きさの部品が回転軸の回りに集中すると、時計というのはどうしても厚くなってしまう傾向にあるのです。

機械式時計のどこがいいのか? その31

針飛びについてずっと稿を続けていますが、今少しこの稿を続けます。だいたい数十万円するような時計にこのようなことがあっていいものでしょうか。でも、これが実はかなり頻繁にあります。百万円を超える時計ですらそのようなことがあります。ということはつまり、この現象はかなり機械的時計にとっては普遍的な現象です。私には、このメカニズムは、機械式腕時計のかなり本質的なところの一つだと思えています。 すこし視点を変えてみましょう。 そもそも機械式腕時計の秒針は、6時位置、または9時位置などの小さなダイヤルの中で控えめに回っていました。当時はほぼ誰も秒までの正確性を気にする人はいなかったことでしょう。ところが時代の要請で、秒単位をきちんと計測する必要がでてきました。クロノグラフの計測用の秒針は、視認性の確保のために中央を軸に大きく回転します。通常の時計でも、センターセコンドと呼ばれる秒針がセンターを中心に大きく回転するタイプの時計が出てきました。これに対して6時位置、9時位置で控え目に秒針が回転するタイプの時計はスモールセコンドと呼ばれるようになります。センターセコンドという時計が出現してきたからこそ、以前の時計はスモールセコンドという分類に押しやられてしまうことになったといってもいいかもしれません。 スモールセコンドとセンターセコンドの時計を並べてみます。左が30年代ロンジンのチェコスロバキア軍用のオリジナル、右は70年代以降のロンジンフラッグシップです。この二つには秒針位置の違い以外にも重要な違いがあります。左は手巻き、右は自動巻きです。この二つの違いは、腕時計のムーブメントにとってかなり大きな違いです。チェコスロバキア軍用の中心軸には、時針用と分針用2つの回転軸しかありません。それに対して新しいフラッグシップでは、時針用と分針用、秒針用、自動巻のローター用と4つの回転軸が中心軸に集結します。

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