腕時計とそれを取りまく世界 Since Apr 2012

Month June 2017

ナイジェリア詐欺・追記

  最近インターネットの振込詐欺が増えているとニュースでは喧しい。いわゆる最近の一般的な「インターネット」、ブラウザによってアクセスできる「インターネット」は、1993年のNCSA Mosaicを起源とすべきであろう。より一般的には1997年に安定版日本語版が出てきたWindows95を起源としても、日本でも、もう20年の歴史がある。 当初は研究者のみのネットワークであったインターネットが一般に開放されてから、ずっと詐欺の問題はあった。2012年前に私はこのブログサイトにナイジェリア詐欺について記事を書いている。最近ではみながスマートフォンを持ち、みなが意識せずにインターネットの世界に接続するようになった。そこで、よりいっそう詐欺の規模、巻き込まれる範囲の人々も増えてきた。そこで、インターネットの黎明期からずっとこの世界に携っている一人として、注意換気の意味も含めて簡単なチェックリストをまとめておこうと思う。 ウェブページの内容を確認する。詐欺サイトは世界中にある。日本にもあるが、ブランドのスーパーコピー品などの場合はその原産国、例えば中国の場合も多い。こうした場合、どうしてもウェブページの内容の日本語訳がおかしい場合がある。ブランド品を扱っている商店でウェブの内容が変な場合はやはり ? であろう。 ショップの情報を必ず確認する。 情報を明記するのは日本の法律で定められている。ない場合は論外だが、あったとしてもメールアドレスがyahooやgmail などのフリーメールであったり、電話番号が携帯の番号だったりした場合には要注意であろう。 できればショップに電話をする。 きちんとしたショップであれば、平日9-5時は対応してくれるはずである。できればそのショップに行ってみるのがいいが、行けない場合は電話してみる。 かならず返品、交換条件を確認する。 価格が適正かどうか確認する。正規の値段と比べて適正かどうか。あまりに安い場合はやはりおかしい。最近ではオークションもあるし、質屋もある。オークションや質屋に持っていけばそれより高く売れるはずなのに値段が安い場合、その業者には、その値段でしか売れない訳があると思うべきである。 詐欺という犯罪の歴史は古い。日本という国に住んでいると分からないが、世界中の他のほとんどすべての国からみると、日本という国はお金持ちの国に見えている。日本は、世界の詐欺サイトのかっこうの標的になっているということを自覚するのがよいかもしれない。 下の図が世界最初のウェブブラウザ、NCSA Mosaic である。1993年当時、大学の研究室のワークステーションの前にいながらにして、 米国やヨーロッパの情報が手元で表示されるということに、ものすごく衝撃をうけたものだった。

機械式時計はなぜ動くのか その7

今回はトルクの重要性についてです。機械式時計はトルクがあるために大きな針を回すことができるということは聞かれたことがあるでしょう。トルクは重要そうだなぁとは思っても、しかしながら、ではその重要なトルクがあればあるほど高級というわけでもなく、どちらかというと高級時計の中には、ロイヤルオークジャンボなどのように比較的トルクが小さいものも多い。しかしながら、それら高級機の中ではロイヤルオークジャンボのトルクは大きいほうである、などと聞いてくると分けが分からなくなってきます。 そもそもトルクというファクターは、なぜ機械式時計で重要なのか。それは機械式時計がゼンマイで動作し、その動作を歯車で増速して伝えるからこそ、重要になってくるのです。ここに以下の点でトレードオフが出てきます。 ゼンマイの長さと動作時間: ゼンマイが解けていきながら動作する以上、ゼンマイの長さによる動作時間の制限がかならずあります。長く動作させたい場合には、トルクは小さくなります。 トルクの大きさ自体の制約: ゼンマイから見ると、ギア比はかならず増速になります。増速の場合、伝えられるトルクは原理的にそこで減少します。車の場合、ギア比がLの場合はトルクが大きいですが、5速、6速の場合はトルクは小さくなります。ギア比を増速すればするほどトルクは小さくなるのです。車の場合はもともとかなり回転数の高いものを減速して巨大な車体を動作させるトルクを得るのですが、時計の場合はもともと一番遅いゼンマイの回転数から増速して脱進機の速度にしていくので、必ず主ゼンマイのトルクから減少します。 精度と脱進機の速度: 高精度を求めれば求めるほど、脱進機の速度は上がる傾向にあります。ヴィンテージ時計は5.5振動または6振動、近年では多くの時計が8振動。場合によっては10振動というものまであります。脱進機の速度を上げれば精度を得やすくなりますが、その分増速の度合いも増えますので、トルクもより必要になります。 結局、ゼンマイをできるだけ消費せずに、しかも大きな針を動作させたい場合はゼンマイを格納する箱が大きくなってしまいます。そうなってしまってはとくにドレスウォッチに代表とされる高級時計とはいえなくなってしまいます。 そこで、限られた体積に含まれるゼンマイのトルクを有効活用するために、伝達ロスをできるだけ減らすために、高級時計の歯車は丁寧に磨いてありますし、ゼンマイの体積とトルクによって動作できる針および機能のバランスを巧みにとってあるのです。

機械式時計のどこがいいのか その36

Last updated on September 26th, 2022伝説的なデザイナー、ジェラルド・ジェンタとロイヤルオークについては、各所で様々に語られているが、次はロイヤルオークならびに高級時計を入手する際の注意点について稿を起こそう。 メンテナンスの必要性についてである。ロイヤルオークがロイヤルオークであり続けるためには、メンテナンスが不可欠である。ロイヤルオークのケースは、元来の特許のコンセプトとしては「簡単に組立てが可能な防水構造であり、いままでにない審美性を与える」となっている。そして以下がyoutubeにアップロードされている Audemars Piguet のロイヤルオーク エクストラシン のケーシング工程の動画である。 ここで注意されたいのは、たしかにロイヤルオークの特許のコンセプト同様、ケーシングそのものは比較的簡単なのかもしれないが、ベゼルと文字盤、ケースにさまざまな加工がなされていることである。ジェンタは、ケーシングは簡易な構造にしたかったかもしれないが、それはあくまで防水を達成するためであり、他の一切の高級時計としての仕様については妥協しなかった。薄型の追求のために採用されたムーブメント2121。いままでにないタペストリーダイヤル、極限までこだわったクリアランス。立体感を出すためのベゼルの磨き分け。 デザイナーは、プロダクトにコンセプトを与える。そのプロダクトがそのコンセプト通りに製造されるかどうかはメーカーの責任である。Audemars Piguetは、見事にジェンタのコンセプトに従ったプロダクトを産み出した。その結果、当然ながらそのプロダクトの生産に必要な工数は膨らみ、ロイヤルオークの価格にも反映されることとなる。ロイヤルオーク発表当時の価格は、ステンレススチールの時計としては破格の3300スイスフランであった。これは当時のPatek Philippeのゴールド製のドレスウォッチよりも高価でRolexのサブマリーナの4倍以上の価格であった。 その製品のメンテナンスが簡単にできるはずがない。ムーブメントのオーバーホールだけでも大変だが、それはできたとしても、きちんとした仕上げがなされないと、ロイヤルオークはもはやロイヤルオークではなくなる。一例を上げよう。簡単に見えるベゼル部分だけでさえ三種類の磨き分けがなされている。上面はサテン仕上げ、側面はポリッシュ仕上げ、そしてパッキンに接着する部分はもう一度サテン仕上げである。 高級時計はおおよそ、5年に一度はこのようなメンテナンスが必要になる。それは正規ディーラーで車を車検に出す程度と同等のコストがかかるということは頭に入れておくとよいかもしれない。またこのメンテナンス・コストはメーカーによって異なるから、時計を購入するときに詳細を確認するのがよいかもしれない。

機械式時計のどこがいいのか その35

若い時期の一時期、年齢を経てからでは絶対に不可能な仕事を達成することがある。ジェラルド・ジェンタにおけるロイヤルオークもその一つかもしれない。 ジェンタが秀逸なことは、その特許を読めば分かる。ジェンタは、どうやら自分のやっている進行中の仕事のその価値が分かっていたらしい。自分の行った仕事の価値を自分で理解してそれを文章にする。これは簡単に見えるが、実はそう簡単な作業ではない。新規性を産み出した人間が、自分で自分の産み出した価値をアピールするのは実は非常にバランスを必要とする、繊細な作業なのだ。 まずたいていの人は、まさに作業しているその新しい仕事に集中して時間をかければかけるほど、その仕事そのものが自分にとってはルーチンの仕事になってしまい、どこに新規性があったのか分からなくなってくる。そうならないためには他者の仕事を広く知ってつねに意識しておく必要がある。 その一方で新規性を産み出すためには、他者の仕事を知りすぎないということも必要になる。他者の仕事を知れば知るほど、自分の中ではそれが当たり前になってしまい、そうなってしまうとブレイクスルーの必要性も失われてしまう。ブレイクスルーするためには、他者の仕事を知りつつも、「ここが不便だ。ここがおかしい。自分だったらこうする」という強烈な意識を保つ必要がある。その意識を保つためには、年齢的には気力がみなぎっている若いほうが有利であろうし、その意識を保つために、あえて知らないということも場合によっては必要になってくる。 ジェンタの秀逸なところは、そこで微塵もブレていないところである。自分の仕事の価値はここにある。世の中にある新しい仕事はここにあると書いている。若いとはいえ、当時から広くいろんな仕事を見ていたのであろう。 ジェンタが残したロイヤルオーク。ジェンタが予見した通り、現代でも、このデザインはいささかも古びていない。当時としては破格な39mmという大きさ、加えてドレスなみの7mmという野心的な薄さ、さらに防水のためにテンションリングに頼らないワンピースケース、そのために採用になった伝説的なキャリバー2121。文字盤のタペストリーダイヤルに、極限までつめた針と文字盤のクリアランス。いささかの妥協も許さないそのデザイン、これこそが若さであると思う。これからの時代を自分が拓くという気概に満ちている。いつまでたっても古びない、若い時計。それがロイヤルオークなのかもしれない。  

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