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Day 2017-09-24

機械式時計はなぜ動くのか その19

ビッグニュースが飛びこんできた。ゼニスのデファイ・ラボである。なんと15Hz(振動数でいえば30振動)という高周波で動作し、その精度はおおよそ10倍だという。15Hzというのは、いままで高振動とされてきたエルプリメロの10振動(5Hz)の3倍もの速度である。しかもそれが機械式で動作するというのだからすごい。 やはりこのメカニズムについても考察を加えなければいけないであろう。 例によってQ値と精度の関係から予測したい。10倍の精度をもたらすためには Q値もおおよそ10倍である必要があった(機械式時計はなぜ動くのか その14))。この時計の周波数は通常4Hz(8振動)とされている時計のおおよそ4倍の速度である。たしかに周波数が高いことは精度向上に寄与する。しかしながらクォーツ時計の発振周波数は機械式時計の1万倍もの速さであるが、Q値として比較すると10倍~100倍のオーダーでしかなかった。 ところがこのデファイ・ラボ、10倍の精度を4倍の発振周波数で達成するという。ということは、これは従来の機械式時計の仕組みではなく、新しいシステムに分類されるということになるだろう。C.O.S.Cクロノメータ規格が-4~+6秒であるから、この10倍の精度を達成するとすると、日差+-0.5秒程度、一ヶ月でも15秒程度である。つまり、通常のクォーツ時計と同等の精度が期待できる新しい機械式腕時計のシステムが誕生したということになりそうだ。 どのようにしてこれを実現したのか。半導体/MEMS技術である。シリコンの単結晶をクリーンルームで結晶成長させ、好みの形に仕上げる。この技術は、例えばDLPを使ったプロジェクターなど、実は広く身近で使われている技術の一つである。いかにもギイ・セモン氏らしい目のつけどころだ。タグ・ホイヤーの技術顧問だった時代の彼の話を聞いたことがあるが、彼は現状の時計業界に大きな不満を持っていた。曰く「機械式時計のシステムは古すぎる。新しい技術がほとんど導入されていない。航空宇宙技術などの進展は著しいのに機械式時計の世界は100年前の技術を使い続けている」。その言葉通り、タグ・ホイヤーの技術顧問だった時代、彼はベルト駆動のモナコV4、振動子としてヒゲゼンマイの代りに永久磁石を使用したペンデュラムなどの開発をリードしてきた。今回のデファイ・ラボは、いままで彼が開発してきた製品の中では、もっとも古い安定した機械式時計のシステムに近いシステムといっていいのではないだろうか。 今後少しの間、このキャリバーを見ていくことにしたい。以下がこの革新的なキャリバー Zenith ZO342についてのwatch.tvによる解説ビデオである。  

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