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Month February 2020

本物のス丶メ その9

さて、前回の仮説を検証していきたい。本物がごく簡単にしかもリーズナブルに入手できる日本において、高くて買えない本物というのはいわゆる「ブランド品」ではないだろうか。 自明に思える問いではあるが、答えるのは思ったよりも簡単でははない。 そもそも、「ブランド品」とは何であろうか。 パッと思いつくのが、ヴィトンやグッチ、ロレックスなどの高額品でかつ、あるキャラクターやシンボルで一目でそのブランドと分かるようにした流通品、ということになるであろうが、実はその定義はきわめて曖昧だ。英語でいうブランドには、もっと幅広い意味がある。ブランドランキングというのを聞いたことがある人もいるであろう。トヨタ、アップル、コカ・コーラもすべてブランドであるし、カシオのG-Shockも間違いなくブランドである。だが、少々高いかもしれないが、G-Shockが高くて買えないからG-Shockの偽物を購入する、などとは少なくとも筆者は聞いたことがない。 ということは、ここでいう「ブランド品」は、数あるブランド品の中でも「高額品」という定義になるであろう。しかもその「高額品」の中でもより知名度があるブランドということになる。知名度がない、例えば時計でいうと1000万円を超える値札をつけるブランドもあるが、そうしたものはマニアや超富裕層にしか需要はない。一般の人は存在も知らないし、もし見せられたとしても、時として奇抜な形状のそれらをつけたいとも欲しいともまず思わないはずだ。 英語ではそれらのブランドを通常 luxury brandとして区分する。しかし不幸にしてこの単語には現在の日本語の語彙にいい対訳がない。よく言われるのが「高級ブランド」という訳語だが、この訳語から “luxury” という単語に含まれる、「贅沢な、豪華な」という意味をとるのは困難であろう。「アップルは携帯電話の高級ブランドである」と日本語で書いても特に筆者には違和感はない。一方、英語で “Apple is a luxury brand in cell phone.”と使うとかなり違和感がある。”Why Apple is luxury?  Everybody is using it every day!” とでも返したくなる。 そこで、本連載では luxury brandの訳として「贅沢ブランド」という対訳を用いることにしたい。 今回の時計は以下。オーデマ・ピゲの薄型ドレスウォッチである。パーペチュアルカレンダーでありながら自動巻機構で薄型というこのモデルはまさしく当時の “luxury” watch であったはずだ。

本物のス丶メ その8

さて前回までに「時計」の値段は下っているということが分かった。少なくとも一般的な感覚では、昭和40年代中頃から現在の令和元年くらいまでの50年に時計の価格はおおよそ1/3 になっている。昭和40年代、戦後20年を経、もはや戦後ではないと言われ各家庭にモノクロTVガ普及した時代である。そのころの時計はやはり高かったのである。 よく「本物は高くて買えないからニセモノでいい」という人がいる。 だが実際には、本物は高くなっていないのである。本物が欲しいのであれば、日本にはほんとうに様々な選択肢がある。たいていの地元には一つや二つの時計店があるし、少し出掛ければデパートや量販店がある。そこで偽物をつかまされることはまずない。 本物が欲しいのであればどこでも行って本物を買えるのこの日本において、わざわざ正規の流通ルートでは入手できない偽物をどこからか入手して、その偽物を自分の身をつけようというのであるから、価格はともかく、手間は圧倒的にかかっているわけである。 では、そこまでして「高くて買えない本物」というのはなんでろうか。 ここである仮説をたてたい。本物が簡単に入手できる日本において、高くて買えない本物というのはいわゆる「ブランド品」ではないだろうか。 次から、ではブランド品は本当に高いのか、という検証を行いたい。 今回の時計はセイコーエクスプローラとも言われる Apinist。もちろん本物である。     5

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