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Month September 2021

ジェンタ特許を読む その8

閑話休題。ここまでをまとめると、ジェンタはこの特許に関して、以下のことを特許の目的として主張していることが分かる。 既存の時計の防水の不十分さ、主として裏蓋とガラス部分のパッキンに頼る防水についての改善 新しい美的外観 簡単な組立てができる構造 まず、1.についてだが、この特許は1971年の12月に出願されているから、ここでいう既存の時計というのは1960年代の時計の構造を指していると考えるのが妥当だろう。当時すでに、スクリューバックの裏蓋は存在していたが、風防としてサファイヤはまだ一般的でなく、風防にはガラスまたはプラスチックが使われていた。そして、風防部分と裏蓋部分との防水を細い円環状のパッキンに頼っていた。ジェンタはそれを指摘していると考えられる。 その1960年代、ジェンタは、オメガでいくつものデザインを担当していた。その最初期の作品の一つが1962年、オメガ・コンステレーションのCラインケースとされている。当時は時計のデザイナーはケース、ダイヤル、ブレスレットなど、それぞれの部品を別々に担当しており、また、それぞれのデザイナーの仕事が名前に残るような時代でもなかった。当時は一デザインに付き15フラン程度しか受け取っていなかったと、ジェンタ夫人は回想している。 ジェンタは、オメガとのこのような仕事を通じて、より大きな仕事にチャレンジするようになり、ロイヤルオークのデザインで名を知られるようになるが、それはずっと後の話である。いまでこそ、パテック・フィリップのノーチラスおよびIWCのインヂュニア・ジャンボのデザインは、ジェンタの作品として有名だが、当初はそれを公表することはできなかったと生前のジェンタは語っている。 写真は壮年のころのジェンタ夫妻である。

ジェンタ特許を読む その7

ジェンタのロイヤルオークケースの特許、どんどん読んでいこう。 ロイヤルオークは、ラグジュアリースポーツの始祖とされている。ロイヤルオークのデビューは1972年。よく知られている通り、金無垢の時計よりも高い(ラグジュアリーな)ステンレススティール製の時計であった。ここでジェンタは、それまで金無垢の腕時計しか作っていなかったスイスの高級時計メーカーが新機軸として打ち出すに相応しい、防水でかつラグジュアリーな時計を産みだそうとしていた。 次の段落には、ジェンタが、既存の特許の問題点をどう克服しようとしたのか、概略が再度語られる。 この防水時計ケースは、以下によって特徴づけられる:複数のネジ、それらのネジの頭は、ベゼルに埋め込まれるようになっており、内部に用意されているそのネジ用の受け穴に固定される。この受け穴は、ネジを効果的な角度に固定できるようにする。それぞれのネジとネジ受けとは、防水パッキン中に埋めこまれて貫通しており、ガラスとベゼルとケースとベゼル、ケースとムーブメント支持用のフレームとの間の防水性を保証している。 ジェンタは、薄い円環状のパッキンを直接圧縮することによって防水性を確保するシステムを不可とし、ムーブメント全体を覆うぶ厚い防水パッキンをケース裏蓋とベゼルとをケースを貫通するネジで固定するシステムを提案していることになる。 実は、ロイヤルオークの最初のこの特許では、受け穴は、ネジをきちんと固定するための角度を保つための受け穴として用意されており、ベゼル側のネジ頭の角度を調整できることに言及はない。特許の図ではベゼルの上のネジの角度は一定していない。

ジェンタ特許を読む その6

ジェラルド・ジェンタによるロイヤルオークに関する時計ケースの特許、この特許の本文の訳出をつづけよう。 このようなタイプの防水ケースは、いくつか知られている。しかしながら、よく知られている構造では、その裏蓋ケースが、薄い円環状のパッキンを直接圧縮するようになっている。これらの構造の欠点は、外部のジョイント部分、特にベゼルと裏蓋ケースの部分とが水に浸されるような状況では、長い時間の間にそれらの部品が酸化されるかもしれない、という点にある。 ここでジェンタは、既存の特許の問題点を指摘する。ジェンタの問題意識としてはジョイント部分にパッキンを挟み、それを直接圧縮するような構造では、長く水に浸されているような状況ではジョイント部分が錆びてしまう可能性があるではないか、という。 この発明による時計ケースの主たる目的は、ウォッチケースのすべての部品について完全な防水性を保証することである。その他に、新しい美的外観であること、また、アセンブリが容易であることを目的としている。 さてジェンタはどのようにこの目的を達成したのだろうか。

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