革新は突然訪れるように見える。そして、たいていの場合その業界ではない別の業界からの知見をベースに訪れるように見える。曰く、その業界にどっぷり浸っていると、漸進的な改良は推奨されるが革新はなかなか推奨されない。革新的技術というのは新しい技術である。それが新しいというだけで、日常に共用される技術としては、ユーザーによる厳しい環境における試験を経ていないという点が、既存の技術に対する大きな弱点となる。
「革新的」とされた技術で実際にユーザーによる日常に共することが出来ず、消えていった技術というのは枚挙に暇がない。時計業界でいえば、2017年にゼニスから提案されていたデファイ・ラボのプロトタイプが比較的記憶に新しい。これは脱進機をシリコンで一体成形するというアイデアであって当時はかなり喧伝された(し、筆者も記事を書いた)が、時計という世界中実に様々な環境で使用されるデバイスには、残念ながら実用できなかったのであろう。このように、新規の技術を実用のレベルまで持っていくハードルは非常に高い。オメガが実用化したコーアクシャル脱進機の場合、1974年に発表の後、オメガが量産に成功したのが1999年である。実用となるためには実に25年の歳月が必要とされている。
さて今日の記事は新型脱進機についてである。
Twitterで時岡氏が本日、新型脱進機の作動模型を発表された。
氏はその名前を Geneva Drive Tornado とされているが、90%近い脱進効率で調速機を駆動するシステムとのことである。何せ今までにまったくないシステムであり、これの解説には、氏からの続報を待ちたいと思うが、twitterでFHF氏がトゥールビヨン機構との対比で、以下のように分類されるのではと知見を披露されている。
- 通常のトゥールビヨンは4番車を固定しているのに対して、時岡氏の脱進機はガンギ車を固定している
- 通常の脱進機 と トゥールビヨン(四番ビヨン)、ブノアの脱進機 と Geneva Drive Tornado(ガンギビヨン) における対比が新型脱進機の位置付けとしては分かりやすいのではないか。
一つだけ確かなことがある。この新型脱進機は、日本から生まれた革新的な技術の一つとなる可能性がある。本サイトでも継続的にウォッチして行く。
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