一般に大きい、小さいという場合、その比較対象が必要になる。機械式時計のトルクが大きい、という場合は、その比較対象はアナログクオーツ時計になるであろう。世の中にアナログクオーツ時計がなかった時代、機械式時計のトルクが大きいという議論はそもそも成立する要件がなかったに違いない。そこで、アナログクオーツ時計のトルクが小さいということについて考えたい。
一体、アナログクオーツ時計は、なぜトルクが小さいのだろうか。原理的には発振周波数が高く3.2万Hz(一秒間に3万回以上発振する)以上である。これを減速するのであるからトルクは問題ないではないか。その通りである。もし、アナログクオーツ時計の原発振周波数を歯車で伝達するのであればそれはそれで問題はないはずである。ところが、クオーツ時計の場合、伝達機構が異なる。電気信号でこの減速比は伝達されるのである。電気信号による伝達の場合、増速も減速も関係はない。
機械式時計の場合、トルクはその動作の本質である。テンプとテンプに至る歯車を主ゼンマイから回転させるためにはトルクが必要だ。一方でクオーツ時計の本質は電子回路である。歯車は本来必要はなく、バッテリーと電子回路があればよく、その表示形態は自由である。液晶でLEDでもアナログの時分針表示でも好きなものを選ぶことができる。針を回転させることは、できなくはないが必須ではない。つまり、トルクは、クオーツ時計の本質ではないのだ。
ではなぜアナログクオーツ時計で、回転運動させた場合に、得られるトルクが小さいのか。それはクオーツ時計の本質である電子回路の動力源であるバッテリーという制約条件による。バッテリーによって回転運動をさせる場合、その動力源はモーターになる。そしてモーターに流せる電流が大きければ大きいほどトルクを大きくとることができる。ところが電流を流すと、当然ながらバッテリーの消費は早くなる。つまり、ここがクオーツ腕時計の一番大きな制約条件、バッテリーの容量になる。限られた電池容量で2、3年も持たせようと思えば、やはりモーターに使える電流は小さくなる。例えば電池が一週間しか持たないアナログクオーツ時計でよければ、モーターに流せる電流は40~50倍は大きくできるだろうから、太い針を駆動するトルクを得ることは原理的には可能であるはずだ。
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