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Category 本物ノススメ

本物ノス丶メ その 5

引き続き、偽物を購入するモチベーションについて考察を続けたい。次に考察するのは以下である。 3. 社会性: 本物なんて不当に高いだけだし、偽物をつけるのはそれに対するアンチテーゼだ。 これにも一理あるかもしれない。本物の価格が不当どうかは次回以降に考えるとして、いつの時代も社会に対して反抗するのはとくにまだ社会体制に組み込まれていない若者たちの特権だ。「本当の価値はブランド(すでに確立された体制)にはない」という意見にも一見説得力があるように見える。 だが、考えてみてほしい。当たり前だが、本物がなければ偽物も存在しない。つまり偽物は、本物に付随するサブカテゴリーではあり得るが、その対立概念にはなりえない。偽物を着用することで、「内心ではそのブランドを認めています。でも買えないので偽物をしています」という主張に見えることはあっても、それを「本当の価値はブランドにはない」という主張に見せたいというのはなかなか難しいのではないか。 どうしても「本当の価値はブランドにはない」という主張をしたいのであれば、時計の場合は、リーズナブルに入手できる本物の時計をしたほうが良いかもしれない。たとえばセイコー5やオリエントなど安価で高品質な時計は日本では至極簡単に入手できる。定期的にメンテナンスすることで何十年と使い続けることができるし、販売店も多く、ラインアップも充実しているから、自分の気に入るデザインを見つけるのも難しくないだろう。これらの時計を着用して、「本物の価値はブランドにはない」という主張をすることは十分理にかなっているし、一貫性があって説得力があるように筆者には思える。 さて、今回の時計はクロノ トウキョウ。独立時計師の浅岡氏がデザイン、監修のみではなく検品まで行っている「機械式時計の入門機」。この個体は最初期ロットの CT001Gである。    

本物ノス丶メ その 4

さて人はなぜ偽物を入手してしまうのか、次に検証するモチベーションは以下である。 2. 外観: 本物か偽物かなんてどうでもいい。自分がカッコいいと思えればそれでいい。 これはリスクにならないのだろうか。 偽物なんて分かりっこないと思っているのかもしれない。 実はこれがけっこう分かってしまうのである。趣味の人が、趣味のモノの真偽についてある程度分かるのは当然だとしても、それ以外のバッグでもアクセサリーでも分かってしまうのである。それも日本だけでなく全世界的に分かってしまう。 筆者はかつて発展著しい中国の深圳(シンセン)地方にビジネス旅行したことがある。その時に二十歳前後の若い女性がルイ・ヴィトンやグッチといった一流ブランドのバッグを持ち歩いていることに驚いた。そこで、同行した中国人の友だちに「中国ってすごい発展しているよね。あんな若い娘があんなハイブランドの物を持ち歩いているなんて!」と尋ねた。すると彼は事もなげにこう言った「ああ、あんなの全部ニセモノさ。知ってるだろ。中国は、世界中のほとんどすべてのモノを作っているんだ。ニセモノだって作れるさ。あんな若い子が本物なんて持てるわけないよ。よく見てみなよ。」そう思ってよく見ると、何かヘンなのである。そんなハイブランドの物を持ち歩いているのに、それほど大事にしている様子がない。また服装や立ち居振舞もなんだか違う。人間の情報処理能力はすごい。一部のみではなく全体を観察することで、なんだかヘンだなぁ、と分かってしまうのだ。 つまり、偽物を着用する時に引き受けなければならないリスクとして、以下が考えられそうである。  周りから見ると「あの人ニセモノつけてる」と見られる可能性はかなり高い。とくに本物を持っている人から見るとすぐに違和感に気付く。 偽物をつけていると分かったときのネガティブイメージ。少なくともそういう人から何か買おうとは思わないだろう。営業職の人には致命的かもしれない。 今回の時計はセイコークォーツQR。往年のセイコークォーツの銘機である。セイコーについては、クォーツの発明がよく喧伝される。発明はたしかに素晴しい。しかし、それと共に素晴しかったのが当時のセイコーの特許戦略である。セイコーは特許をライセンスすることで、様々なメーカーがその新技術を使えるようにした。もし、セイコーがこの戦略をとっていなかったら、果して「革命」と言えるような速度でクォーツ革命が起きていたのかどうか。歴史にifは禁物だが、その場合はおそらく機械式時計の復興というイベントも必要なかったに違いない。

本物ノス丶メ その 3

さて、人はなぜ偽物を入手してしまうのか。このことについての考察を続けたい。まずは簡単なところから取りかかろう。 1. 知らなかった。ネットで安いから買ってみたら偽物だった。 これは意外と多いのではないだろうか。筆者はもともとPC趣味だったからインターネットの黎明期からネット上の個人取引の経験がある。自己責任も注意点も十二分に分かっていると自分では思っていた。 そんな筆者でも、一度だけ偽物をネットの個人取引で購入させられそうになってしまったことがある。 ある時たまたま、当時調べていたあるブランドの時計で、これって安いな~と思う商品をオークションサイトで見つけた。そこで、出品物の画像、出品者の過去の履歴などを一通り確認し、「特に問題なし」と最高額を指定して入札した。帰宅してオークションサイトを確認すると筆者が落札していた。だが、同時になにか変だとも思った。そこで再度確認してみると明らかな偽物であった。 偽物は、販売するのも購入するのも法律違反だ。筆者としては法律違反をするわけにはいかないから取引はキャンセルせざるをえない 。しかし筆者はその偽物を一旦落札しているので、システム上は-1がついてしまう。筆者のオークション履歴にある-1がこれである。 これ以降、筆者のネット取引の自分ルールに以下の項目が追加された。 安いな~と思ったときは要注意 思い込みは目を曇らせる。普段はできるようなことができなくなる。筆者の場合、再チェックするとすぐ分かるようなことに、思い込みで目が曇っているときは気付くことができなかった。 ブランド品は、基本的には不要不急の品物である。買わなかったからといって、損することはない。 今回の時計は、ロイヤルオークジャンボ5402。六本木で行なわれていたオーデマ・ピゲのイベントで展示されていたオリジナルのA番である。

本物ノス丶メ その2

さて世の中にモノが溢れている現在、なぜわざわざ入手しにくい、しかも高価な本物を入手しなければならないのか?法律論で片付けるのは簡単だが、それではこのブログも一行で終わってしまう。そこで、まずは「なぜ人は偽物を買うのか」について考えてみたい。 偽物を購入するためには、購入する動機が必要だ。そこで、まず最初に偽物を購入する動機を考える。おそらく以下くらいではないだろうか。  知らなかった:ネットで安いから買ってみたら偽物だった。  外観: 本物か偽物かなんてどうでもいい。自分がカッコいいと思えればそれでいい。  社会性: 本物なんて不当に高いだけだし、偽物をつけるのはそれに対するアンチテーゼ。 価格および入手性: 偽物と知っていたが、本物は高くて買えないし、そもそも希少で手に入らない。 実際に偽物をつけていらっしゃる方も電車や公共の場所で散見するから、これらの何れにもそれなりの説得力があるのであろう。 そこで、これらの項目それぞれについて、それがどのようなリスクを含んでいるのか、検証を試みたい。その結果、もしも法律以外のリスクがゼロとなるのであれば、それは法律以外に人が偽物を購入する動機を規制するものは何もない、ということになるはずだ。 今回の時計は1960年代のオメガコンステレーション。時計本体はもちろん風防、ブレスレットまですべてオリジナルの逸品だ。50年以上前に作られた時計だから無理はさせられないが、それでも日差5秒程度で快調に動作している。

本物ノス丶メ その1

フリマやオークションが盛んだ。2018年度、国内トップの取扱はヤフオクで8899億円。それを猛追するメルカリが5307億円。日本の百貨店全体の売上規模がおおよそ6兆円であるから、ヤフオクとメルカリだけですでに百貨店全体の売上の1/4に相当する金額を取り扱っていることになる。ヤフオクは、2016年度の8966億円を頂点に国内首位をキープする一方で、スマホを主戦場とするメルカリは前年度に比べて40%以上も取扱高を増やしている。他方では、各地の百貨店の統廃合のニュースも喧しい。今後もこのネット主導の流れが後退することは考えにくく、時計を含む宝飾品やブランド品もネットで購入する割合が今後とも増えるであろうことは間違いない。 ところで、一消費者としてこの流れには困ることがある。百貨店を含む実店舗が減少して、本物を見る機会が減少してしまうと、購入の決断をネットのみで行わなければならなくなるのである。日本の百貨店の信頼性は非常に高く、そこで取り扱われる品物は本物で間違いないとほぼ100%信じられている。一方でネット店舗、とくに宝飾品やブランド品に関する店舗の信頼性は、もちろん真面目に商売を行っている商店もあるが、そうではないところもあり、玉石混交といってもいい。 もともとインターネットの普及する1997年(平成9年)以前から、百貨店、専門店以外の信頼性はたいして高くはなかった。当時から宝飾品やブランド品の正規の取り扱いは百貨店や専門店に独占されており、その二次流通の経路として質屋や古物商などがあった。この経路の商品は、例えば「なんでも鑑定団」を見ていても分かるが、当時からまさに玉石混交であって、本物もあればとんでもない偽物も多かった。 ただインターネットの普及以前、本人は実物を見てから購入できた。欲しいものがどうしてもあって、それを何らかの理由で「安く」購入したい場合は、実物を見てから自己責任で購入してきたのである。ところが昨今では、実物を見ずに購入するのがむしろ主流である。スマホでクリックするだけで商品を購入できるし、しかも以前からの二次流通の経路である質屋や古物商などと違い、免許もない一般消費者から購入することなどももはや当たり前となった。もともと玉石混交だった二次流通カテゴリは拡大に拡大を続けており、それに伴い一般人が偽物に触れる機会も格段に多くなっていると考えてまず間違いないであろう。 そこで、ちょっとした誰にもできる注意点などを書いていきたいと思う。 今回の時計はセイコーブライツ。セイコーの正規店にて購入したデットストックである。

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