デイ・デイト付き自動巻スピードマスター。いわゆる竪琴ラグのプロフェッショナルケースに、ムーブメントとしてオメガ1045を搭載した唯一のモデルである。オメガ1045は、後年のレマニア5100であり、ムーブメントの初出はl973年(昭和48年)とされている。 いまから50年前の1969年(昭和44年)にセイコー社が世界初のクオーツ腕時計を発表、昭和40年代後半のこの頃、すでにクオーツ時計が世の中を席巻しつつあった。しかし、スイスの各時計メーカーは、自動巻クロノグラフのマーケットを諦めてはいなかった。タグホイヤー、ブライトリングらが1969年に最初の自動巻クロノグラフをリリースしているし、ゼニスもエルプリメロを1969年に発表している。オメガも1971年(昭和46年)には初の自動巻クロノグラフ1040を搭載したスピードマスタープロフェッショナル MK III、次いで1973年には Mark IV をリリースする。 本モデルに搭載されたムーブメント、オメガ1045は1973年初出とされる。かのAlbert Piguet 氏らによって、オメガ向けにリリースされた自動巻クロノグラフの意欲作である。デイ・デイト表示に加え、24時間計表示、タフな耐ショック性などを備えていた。このタフさはツールウォッチメーカーに高い評価を得、後年、Sinn、Fortis、Tutimaなどが軍事用、航空宇宙用のモデルにこのレマニア5100(オメガ 1045)を採用することとなる。 時を同じくして1973年には自動巻クロノグラフのベストセラー、Valjoux 7750 がリリースされている。ところがこのValjoux7750は、そのわずか二年後、1975年には生産中止となってしまう。理由はクオーツの普及である。オメガも、1970年後半のスピードマスターの新製品は音叉やクオーツに移行してしまうことになる。 この10年(おおよそ1975-1985,昭和50年ー昭和60年ごろ) は機械式時計にとって冬の時代であった。しかし、1980年代(昭和55年~)の初頭になってくると機械式時計の復興の機運が盛り上がってくる。Vajoux 7750の再生産が開始され、1984年(昭和59年)には新生ブライトリングからアーネスト・シュナイダーによるクロノマットがリリースされる。また、ゼニスからエル・プリメロの再リリースがアナウンスされたのも1984年である。オメガも1985年(昭和60年)、10年ぶりに再び自動巻のスピードマスター MarkV をリリースする。 それに続く自動巻のスピードマスター、本モデルのリリースは1987年(昭和62年)である。1988年には、普及機である自動巻スピードマスター・リディースドの発表によって生産中止になっているから、このモデルの生産年数は、1987-1988年のわずか二年である。そして、オメガにとってはこのモデルが最後のオメガ1045の搭載モデルとなった。 その生産本数の少なさから、また当時この自動巻クロノグラフは多くドイツ/EUマーケット向けに出荷されたこともあり、とくに日米では極端に数が少なく幻とさえ言われることもあるモデルでもある。著名なオメガ.コレクターであった Chuck Maddox氏(故人。シカゴ在住であった)もそのあまりのレアさ故に「Holy Grail」とニックネームをつけたほどであり、日本でときにホーリーグレイル、聖杯モデルと呼ばれる由来はここからきている。 リファレンス 376.0822 製造年 1987-1988 キャリバー オメガ1045 総生産数 ~1800
さてクオーツ時計と機械式時計の比較の続きです。精度、トルクとみてきましたが、今回はメンテナンスの差、オーバーホールについてです。 腕時計のオーバーホールの場合、おおよそ次の手順からなります。 外装チェック、洗浄 防水チェック、必要であればリューズ、パッキンなどの部品交換 ムーブメントの分解、洗浄、注油 この内、外装や防水のチェックについてはクオーツでも機械式でもそう手間は変わりません。大きく違うのはムーブメントの分解、洗浄、注油工程になります。部品数の多い機械式時計の場合は、この工程がそれなりに手間がかかります。機械式時計は、比較的大きなトルクで複数の歯車を駆動します。そこで、部品の摩耗対策が必須になります。このため、とくに摩耗が大きい歯車の軸には受け石と呼ばれるルビーを配置し、そこにオイルを塗布します。画像は1968年製造のオメガ861。裏蓋を開けたところから見えるルビーの位置には矢印を置いてます。画像で下のほうに見えるのがテンプで、これがオメガ861の場合、一秒あたり6振動、一分では360振動もします。 一方、クオーツ時計は、モーターで針を駆動し、そのトルクは機械式時計と比較すると弱いです。その上クオーツ時計は部品点数が少なく、機械式時計のテンプのようにせわしなく回転する部品はありません。クオーツ時計の場合、一番速く回転する部品は秒針で、1分で一回転します。機械式時計と比べると部品に与える負荷が非常に小さいのが分かります。 なお、クオーツ時計もたいていの場合受け石があります。これは一つのモーターで複数の針を駆動するからで、その場合、基準となるモーターの回転数を調整する歯車が必要になります。その歯車は、ある回転軸の回りを常に回転していますから、摩耗対策が必要であれば、そこにはルビーが置かれるでしょう。世界最初のクオーツ時計、アストロンは8石のムーブメントを搭載していました。 そして、受け石があるということは、クオーツ時計も分解、洗浄、注油というオーバーホールはしたほうがいいということになります。しかしながら、クオーツ時計の場合、部品の損耗が機械式時計よりは段違いに小さく、結果的に電池交換だけで10年とかは普通に動くことになります。ただしケースの防水性の劣化は、機械式時計、クオーツ共に変わりませんので、防水性が必要な時計は定期的にチェックしましょう。
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