さて、機械式時計の「どこ」がいいのか?この「どこ」を切り分けるために、まずはここでいう「機械式時計」の位置付け、カテゴリー分けからはじめましょう。日本語では、機械式時計は、明らかに「時計」のカテゴリーです。つまり教室に掛けてある掛け時計や、札幌の時計台、目覚し時計、日時計や水時計も時計のカテゴリーです。膨大なモノを含むカテゴリーですね。 一方、英語ではどうでしょう。実は日本語でいう「時計」に、1:1で対応する英単語はありません。四捨五入しておおざっぱにいえば、「時計」=クロック(clock) + ウオッチ(watch)です。英語では、クロックとウォッチとは別のカテゴリーです。日本語では簡単に「おじい~さんのとけい~」と言えて、それが掛け時計でも懐中時計でも一向に構いませんが、英語では「おじい~さんのクロック~」(掛け時計の場合)または「おじい~さんのウォッチ~」(懐中時計の場合)と厳密に指定する必要があります。個人が身につけられていつでも時刻を知ることができる道具に、例えばポータブル・クロックではなく、わざわざ「ウォッチ」という特別な名前がつけられていることから、当時はこの技術がかなり革新的と捉えられたということが分かります。 一方日本語では、人間の活用する形態による分類というより、活用されている技術による分類となっています。つまり、掛け時計だろうが、腕時計だろうが、どちらにしても時間を計る道具でしょ?というスタンスです。 これは実は大きな違いですね。英語圏では、時間をいつも正確に読みとりたいというニーズがとても高かったことに対して、日本語圏では、そのニーズはそれほど高くはなかったとも言えます。もともと米の飯をお腹いっぱい食べることを目標に田畑を耕していた我らが先祖たちは、おてんとさまが真ん中あたりだから昼にしよう、で済んでいたのかもしれません。 しかしながら結果的に便利なことに日本では、セイコーやシチズンが「時計メーカー」として腕時計も掛け時計も作れます。しかし、英語圏では「時計メーカー」という便利な概念はありません。あるのは、ウォッチメーカーとクロックメーカーです。ロレックスは ウォッチメーカーです。クロックメーカーとしては例えば エルウィン・サトラー など、まったく別の会社になります。 ということで、ここで扱うのは、WristWatchの機械式時計の話になります。 写真は新型のロレックスデイトナ。ムーブメントはロレックス自社製のCal.4130です。 クロノグラフの動力伝達にはセイコーが世界で初めて開発した垂直クラッチ方式を採用しています。
ナイジェリア詐欺、自動巻クロノグラフの黎明期と見てきましたが、ここらあたりで、機械式時計がなぜ必要なのか、どこがいいのか、私なりの見解をまとめておきたいと思いました。「時間を知る」という機能に限っては、かつてこれはかなり難しい専門家の仕事でしたが、現代ではもう機械式時計は不要です。携帯は誰でも持ってますし、そこらじゅう時計であふれています。機械式時計をつけていても、正確な時刻は携帯で見るという人もいます。 数万円も出せば立派なクォーツ時計や携帯が買える現代、それ以上、場合によってはその数倍~数十倍の金額をかけても入手したいもの、それはいったいなんなのでしょう? 一言でいえば、ラグジュアリー、不要不急の贅沢品がなぜ必要になるのか、という疑問に置き換えることができると思いますが、どうも人は機械式時計にある種類の夢を持つことがあるようです。ある人は、男にとってほぼ唯一の身につけられるアクセサリーだから、といいます。またある人は、腕時計をつけるのは宇宙を腕につけるのと同じことだ、といいます。とあるブランドのCEOは、ラグジュアリーとは砂漠における一杯の水だ、と書いてました。表現は違えど、どうもこれらの方々は、機械式時計は不要不急の贅沢品などではない、ある種類の人間の生存に必要な何かを満たしているのだ、と言いたいようです。かくいう私も時計を忘れてしまうと、かなり何か物足りない感じがしてしまいます。 写真はクロノグラフの最高峰の一つ、ロレックス デイトナ。1999年ごろのものです。ムーブメントには、ロレックスが徹底的にチューンしたエルプリメロを搭載しています。
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