Wristwatchな世界

腕時計とそれを取りまく世界 Since Apr 2012

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機械式時計のどこがいいのか? その24

ジェラルド・ジェンタが、新しいデザインの高級スポーツ時計をオーデマピゲと開拓した当時の時計ケースの特許を見てきました。ジェンタがいうように、たしかに新しい外観で、製造性も考慮されており、しかも防水性も確保されているようです。 次は、そのケースに収められる時計の中身、ムーブメントを見てみましょう。初代ロイヤルオークは、いままでにない新しいデザインを訴求して作られました。そのための新しいケースは裏蓋がなく、薄型にして、なおかつ十分な防水性、対衝撃性を保つことができました。その薄型ケースに採用されたのは、ジャガー・ルクルト920ベースのムーブメント(AP 2121)です。厚さわずか3.05mmの自動巻きムーブメントで、量産される自動巻ムーブメントの中ではもっとも美しいムーブメントの一つといっていいでしょう。 人の手がかかればかかるほど、モノは高級品になります。ムーブメントで手がかかるところは、もちろんその仕上げです。同じベースムーブメントでも、仕上げによって全然違うムーブメントになり、高級品になればなるほど、ステンレスの削り出し部品に仕上げが加わります。まずは部品の面とりです。削り出されたステンレスを磨いて角をとります。そして、一つ一つの部品にコート・ド・ジュネーブといわれるさざ波のような仕上げをしていきます。ムーブメントの地板や裏蓋にはベルラージュと言われる仕上げを施します。歯車の歯は、一本一本磨きます。これによって、歯車の抵抗が減りトルクのロスを減らせます。 画像は最新のオーデマピゲ 2121 のムーブメントです。ムーブメントの中央部に何本か斜めに見える線がコート・ド・ジュネーブです。外周部には、ムーブメントの地板に施された円の紋様、ベルラージュ仕上げが見えます。部品の一つ一つは磨かれ、面取りされているのが分かります。

ナイジェリア詐欺体験(?)記 番外編

閑話休題。オークションに出品していると、時々英語の問い合わせがあります。こうした方は新規の方が多く、問い合わせ内容も「緊急に欲しいんだけど、値段を教えてほしい、ここにメールちょうだい」、とか誰から来てもほとんど同じです。そもそも、なぜ海外のオークションで緊急にモノを手に入れたいのか理解に苦しみます。本当に緊急なら海外のオークションサイトじゃなくて、地元のデパートに行くほうがいいですよね。しかも私が出品しているのは、たいていアンティーク時計です。アンティーク時計がなぜに緊急に必要なのか、全然理解できません。まあ要するに、いわゆるナイジェリア詐欺なんですが、最近ちょっと面白い問い合わせがありましたので紹介します。以下をご覧ください。 IDがまったく同じ新規の方なのですが、別の名前を名乗り、別のアドレスにメールを欲しいといってきています。 私は Mrs.Janeです。smithjane1759@gmail.comにメールください。 私は Granzen Thorsten です。granzenthorsten@yahoo.co.ukにメールください。 問い合わせでどういう名前を使ったかくらいは管理しておいてほしいものですが、この人の英語はそう変でもないので、ほんとにイギリスの人かもしれません。 まったく、と思って、調べたところ見つけました。どうもこの人はロシアの方のようです。ロシア語の翻訳サイト(2012年5月)にその痕跡らしきものがありました。 次をご覧ください。翻訳サイトなので、変な日本語ですが、要するにPaypalからの260万円の支払いの承認待ちをお伝えします。このうち60万円が送料です。あなたが、荷物を送ったというトラッキング番号を入れることで、この金額があなたの口座に入金されます。ということをおおむねいいたい模様です。 もちろん、そんな金額が入金されるわけはないですね。Paypalの場合、送金したらすぐ口座に入金されます。こんな面倒な操作は要求されません。だいたいPaypalであれば、いちおう日本語のサイトもありますから、問い合わせをしたらすぐ分かるでしょう。Granzenさんは、なぜロシア語の翻訳サイトでこんなへんてこな日本語を用意しなければいけなかったんでしょう? みなさまもくれぐれもお気をつけください。

機械式時計のどこがいいのか? その23

ロイヤルオークの続きです。今度は特許の本文を読んでみましょう。ジェンタが何を考えてこのケースを考えたのか、少し見えてくるかもしれません。 この発明は時計のケースに関するものです。 高い防水性を持つ時計ケース、これが発明の目的の一つです。これは、とりわけシンプルで、製造に適しており、そして、美しい外観を持ちます。 この防水性の高い時計ケースは、ケースバックと、風防を挟み込んだベゼルとを何本かのネジで結合します。そのケースバック、ベゼル、風防とムーブメントのケーシング用のフレームの間には防水性の高いパッキンが配置されます。 似たような構造の例はたくさんあります。しかしながら、従来の構成では、ケースバックが直接、薄い環状のパッキンを圧着します。この方式の欠点は、その部分以外の時計の接合部分にありました。とりわけベゼルとケースとの間が、ある一定期間水で満たされた場合、これらの部品が錆びてしまうかもしれません。 この発明によって作られる時計ケースの大きな目的は、時計ケースのすべての部品に対する完全な防水性を保証することです。そして、新しく美しい外観、また製造の容易さも考慮されています。 ジェンタは、新しいスポーツ時計をデザインするにあたって、防水性をもちろん考えていました。しかし同時に時計の外観に配慮し、さらに製造の容易さまでもデザインの段階で考えていたということが分かります。

機械式時計のどこがいいのか? その22

ロイヤルオークの話を続けます。仕上げは最終工程ですから、その時計の作られたコンセプトと密接に関連があります。そこで今回はロイヤルオークの特許を読んでみたいと思います。まずは表紙です。 画像は、1973年9月に成立しているU.S.の特許です。スイスで成立しているのは1971年12月です。発明者はジェラルド・ジェンタ、特許の権利者はオーデマピゲです。4ページしかないので、比較的簡単に読めます。 概要のところを訳出してみます。これはほぼ特許の請求事項と同じです。 ケースバックとベゼル、風防ガラスとをネジによって結合する防水時計ケースです。ケースバックとベゼル、風防ガラス、ムーブメントを支えるフレームとの間には防水パッキンが配置されます。ネジの頭はベゼルに埋めこまれるようになっています。それらのネジは、内部に用意されている受け穴に固定され、ケースバックから必要に応じてそのネジを固定できます。それぞれのネジとネジ受けは、防水パッキンを貫通していて、ガラスとベゼル、ケースバックとベゼル、ケースバックとムーブメント用のフレームとの間の防水性を保証しています。 一言でいえば、裏蓋がないタイプの新しいケースの特許です。特徴的なのは、ベゼルとケースとを何本かのネジで結合して、その間に風防ガラスとムーブメント支持用のフレームを挟みこむことです。その間に防水パッキンを置くことで、防水性を確保するというアイデアになります。 図でいう8がネジ,11は円ではないネジの頭です。9がネジ受け,10はそのネジ受け内部に溝が切られている部分です。防水パッキン4はこれはA(ベゼル5とケースとの間)、B(ベゼル5とガラス6との間)、C、(ケースとムーブメント13のケーシング用リング12との間)の間を満たします。 特許には新規性が必要です。そこでこの特許の新規性は、いままでの問題点を解決する防水ケースという観点で書いてあります。しかしこの特許は、防水性という実用性だけではなく、外観的な部分も考えていることが分かります。ベゼルの上にネジが出ていてはかっこ悪いですよね。なので、ネジの頭の部分をベゼルに埋めこめるようになっています。しかし、ただ、埋めこめるようにしてしまうと、ネジが回転できなくなります。そこで、ネジの回転は、内部に埋めこまれているネジの受け穴で十分回転でき、ベゼルを固定できるようになっています。 興味深いことに、この特許の図では、ロイヤルオークのネジの向きは揃っていません。みなマチマチの方向を向いています。

機械式時計のどこがいいのか? その21

仕上げの話、まだまだ続きます。今回は、オーデマピゲのロイヤルオークを取り上げます。ステンレス製の高級スポーツ時計という分野を開拓した時計です。オーデマピゲやパテックフィリップといった「超」のつく高級時計メーカーは、ステンレスという素材を原則として使っていませんでした。そのほとんどが金無垢の素材の時計で、ステンレスを使うのはほぼスポーツラインのみです。そのステンレス製のスポーツラインの嚆矢がこのロイヤルオークです。ジェラルド・ジェンタ(故人)という有名な時計デザイナーの代表的な作品です。パテックフィリップのノーチラスも彼のデザインになります。 ロイヤルオークのデザインコンセプトは、薄型の高級スポーツ時計の追求にありました。スポーツ時計というからには防水性があり、衝撃に強くなければいけません。70年代当時、ネジ込み方式の裏蓋を使って防水ケースにする技術(スクリューバック)はすでにありました。しかし、ケース裏に裏蓋のねじ込み用の溝を切ると、その分厚さが増してしまいます。わずか1、2mmですがジェンタはこれを嫌いました。そこで裏蓋のない一体式のケースを考案し、パッキンを挟みこんで、ベゼルで上から挟み、ムーブメントを固定する構造を採用します。このベゼルは、風防も挟みこみ、これも当時の防水の弱点だった、風防とケースの接点部分の防水性能も改善します。この結果、わずか7mmの薄さで必要な防水性能を達成しています。 デザインだけでなく、このロイヤルオークは仕上げも秀逸です。薄型の時計で普通に磨き仕上げをすると、それだけでは通常の薄型のドレスウオッチとさほど違わないデザイン、仕上げになります。ジェンタは当然ながらこれも嫌いました。ジェンタは、この裏蓋がない新しい一体形のケースが、今迄にないデザインを可能にするのを知っていました。ロイヤルオークのモチーフは、イギリスの戦艦「ロイヤルオーク号」の八角形の船窓です。ジェンタデザインのロイヤルオークも同様に、八角形のベゼルを持ちます。ジェンタは、このロイヤルオークに、曲面ではなく、平面を組み合わせたケースデザインを与えました。さらに、この新しい薄型ケースを立体的に見せるために、サテン(ヘアライン)仕上げと磨き(ポリッシュ)仕上げをうまく使い分けます。ベゼル前面はサテン、ベゼルの側面はポリッシュ、さらにベゼル下部に回りこむと、画像では線のようにしか見えませんが、サテン仕上げになっています。同じく、ケース前面およびケース側面はサテン仕上げですが、その境目はラグに向かって少しだけ広くなるようなポリッシュ仕上げです。 この仕上げがなければ、ロイヤルオークは、ここまでのモノにはならなかったのではと個人的には思っています。おそらく数ある時計の中でもロイヤルオークは、一、二に仕上げが難しい時計ではないでしょうか。ロイヤルオークのジャンボ自体、数が少ないですが、そのオリジナルを見たことがない時計店でポリッシュやサテン仕上げがされると、ベゼルの直線部分が曲面になったり、ケースの前面と側面のポリッシュ仕上げ部分も丸くなったりなど、緊張感のない時計になっている例をときどき見かけます。特にロイヤルオークはその幅広のベゼルにキズが入ると目立ちます。ので、必要以上に磨いてしまうのでしょう。まあ、それでも悪い時計ではないですが、少し残念な気がすることもまた事実です。仕上げは、最後に時計に魂を込める工程ともいえます。やはりオリジナルのコンセプトを尊重して入魂するのが望ましいといえるのかもしれません。 画像は70年代の初代ロイヤルオークジャンボです。これは筆者が友人に譲ったもので、いまは友人の手元で可愛がられています。

機械式時計のどこがいいのか? その20

仕上げの話、続きます。ここでいう仕上げとは、職人による磨き工程のことを言います。人の手による仕上げ工程および検査工程を経ることで、時計はいっそう工芸品としての価値を増します。 人間の五感というのは、ものすごい繊細なものです。一番分かりやすいのは視覚ですね。いま、昔のアナログTVを見ると、その解像度の低さに唖然とすることは間違いないでしょう。最先端ではハイビジョンより解像度の高い、4000×2000(4k2k)の解像度のTVなども実用化されようとしていますが、すごいのはそのTVよりもその違いを認識できる人間の目だと思います。触覚もすごいです。町工場の金属職人は、ミクロン単位(1000分の1ミリ)で平面を出せる人がいたといいます。 そういう、鍛えられた目と手を持つ職人によって、時計は仕上げられます。一流の職人の手間がかかっていればいるほど、繊細できれいな仕上げになります。そして、人の手間がかかっていればいるほど、時計は量産が難しくなり、工芸品となっていきます。 その昔、時計が限られた人たちのものだった時代、時計はその見えない部分ムーブメントの部品一つ一つまで職人によって丁寧に磨かれていました。一つには、ムーブメントの美観というのもあったのでしょうが、実用的な意味もありました。工作精度も今のようではなく、部品一つ一つを磨いて噛み合わせを調整する必要もあったのでしょうし、一つ一つの部品を磨くのと磨かないのとでは、摩擦係数が違い、精度が違っていたのではと思えます。また40年代以前、当時のスチール製のゼンマイは今よりはるかに切れやすく、ゼンマイから出力されるトルクを均等に使うためにも、その負荷である歯車やその機構を磨いて調整するのは意味があったのでしょう。 今では当時ほどの意味はないでしょうが、やはり最終工程で職人の手を経ることによって、完成度は上がります。 画像は、友人のパテックフィリップの年次カレンダー5205です。今度は側面からです。側面から見ると、ケースの仕上げの良さがまたよく分かります。上方に絞ったベゼル、一部の隙もなくまるで一体成形してあるかのようなケースへの接続。ケース側面の柔らかい鏡面仕上げ。また、この5205はラグに特徴的な仕上げがしてあります。パテックフィリップはすべてのケースを鍛造(素材を型で抜いて圧力をかけ、熱処理という工程を繰返す製法)で作ります。これは量産に向いた方式で、パテックでは今まで作ったすべてのケースの型を保存しているそうですが、このラグ部分は鍛造工程後にさらに削り出し工程で行っています。そして最後に職人よる磨き仕上げ工程を経て、このようなケースが出来あがります。

機械式時計のどこがいいのか? その19

機械式時計の位置づけ、クオーツ時計との比較、実用時計とコレクション時計と見てきまして、ようやく本題に近づいてきました。機械式時計のどこがいいのか、今回からのテーマは「外装や機械の仕上げ」です。「仕上げ」とは一言でいえば、職人が手間暇をかけてモノを磨き上げる工程、といってもいいでしょう。腕のいい職人が丹精こめて磨き上げた品物は、時計であれ靴であれ器物であれいいものです。いいモノを身につけると、気分まで変わってきますよね。 ところで、いいモノにするために職人が手間暇かけることができるには、何が必要でしょう?まずはその職人の基礎的技量、その技量を磨く年月がなければ、モノになりません。しかしながら、職人が修行できるそのためには、そのモノが世の中に受け入れられ、ある一定程度、常に需要があること、つまりお客が必要です。 いくら優秀な職人が長年修行しても、それが世の中に認められず、作品が二束三文でしか売れないとなればその職人はおそらく廃業するしかないでしょう。職人は芸術家とは違います。お客あっての職人です。芸術家 というのは、認められようが認められなかろうが、売れようが売れまいがおかまいなしに自分の好きなことをただひたすら追求する人たちのことでしょう。一方、職人は、そのモノが常に一定の需要があるということを前提にして生活の糧を得ています。その仕事は細かく分業されているのが常です。 京うちわという工芸品があります。比較的廉価なものもありますが、最高級のものは、扇ぐというよりは飾って清涼感を演出するためのものです。柄の部分とうちわ本体は別体式になっており、うちわ部分は細い繊細な竹で骨組が組まれ、透けて見える骨組のその上に花鳥風月の彩を添えています。高級なものは8万円以上します。竹の骨をつくる竹職人、団扇を張りあわせる職人、細工職人などによる手作業の連携で、出来上がりに一年以上かかることもあることを考えると、その値段もまあ納得です。画像は京うちわ阿以波さんからです。 腕時計の世界もやはり職人の分業化が進んでおり、ムーブメントの専業会社、モジュール会社、針を作る会社、文字盤を作る会社、ガラス会社、ケース会社などに細かく分かれてそれぞれの腕を競っています。 腕時計の場合、特にムーブメント製造部門を持つ時計会社のことをマニュファクチュールということがあります。もちろんムーブメントは、時計の主要な部品です。しかし、時計の生産には他にも多くの部品が必要で、マニュファクチュールといえども、多くの協力会社の存在を抜きに時計は生産できません。ムーブメントの主要部品、ヒゲゼンマイは ニヴァロックス社製であることが多いですし、ロレックスのサファイアガラスは日本製です。 画像は、パテックフィリップの年次カレンダー5205です。これは私の友人の所有です。年次カレンダー以上になると、パテックのケースの仕上げは明らかに群を抜いています。特にケースの曲面仕上げが素晴らしく、面と面の接合がきちんとしており、まったく隙がありません。

機械式時計のどこがいいのか? その18

実用時計の続きです。実用時計とコレクション時計とを分けるものは何でしょうか?現代社会で実用時計とされる条件をいくつか挙げてみましょう。 防水性 … 日常生活防水で普段は問題ないでしょう。しかし夏は水道の水でジャブジャブ洗いたくなります。また夏場の遊園地で霧状の水をかけられることもありますが、あれってけっこう危険かもしれません。水が水蒸気になると、わずかな隙間からでも侵入しやすくなります。 対衝撃性 … 衝撃に弱いムーブメントですと、スポーツの時には外すなど、気を使って取り扱うのが望ましいです。 精度 … 少なくとも日差+-30秒以内であって欲しいです。+-5秒以内だと素晴しいです。 針あわせの容易さ … 秒針停止機能があれば、分針と秒針とをきっちりあわせられます。また、リューズを押し込んで分針をセットするときに針飛びをしないのも大事です。これで針飛びする時計は意外とあります。 防磁性 … スマートフォンやPC、TVなど電気製品があふれる現代では、ある程度はもはや仕方がありませんが、防磁を考えている時計であればある程度は防げます。 メンテナンス性 … 壊れたときに修理してくれるところがあるのかどうか。また傷つけてしまったときも、ケースを磨くことができるのかどうか。一般的にドレス時計は薄型で仕上げがいいので、キズには弱いです。 携帯性 … 大きくて厚い時計ってかっこいいですが、携帯性はあまりよくないです。 所有感 … いつも身につけているものですから、持っていて満足感がある時計であって欲しいです。 例えばロレックス、オメガ、ブライトリング、IWC、ロンジンあたりであれば、上の条件はある程度満たされるでしょう。中でもロレックスは実用時計最高峰と言われるだけあって、これらの条件のほとんどを満たします。ところで一方、パテックフィリップやオーデマピゲ、ヴァシュロン・コンスタンタンなどの雲上時計と称される時計になってくると、日常生活防水の薄型ドレス時計や繊細なムーブを搭載しているスポーツ時計も出てきます。 どちらがいいということはありません。最終的にはライフスタイルと好みになってくると思います。夏場に遊園地にいったりプールで泳いだりするときに機械式時計をつけるかつけないかはお好みですし、そもそも遊園地なんていかないという人もいらっしゃると思います。 画像は、ヴィンテージのオメガ スピードマスタープロフェッショナルです。月に行った時計ということでムーンウオッチとも呼ばれます。1968年製で、いわゆる4thといわれるケースと、ダイヤルには立体的なアプライドのオメガマーク。この固体は、ちょうど過渡期に作られたもので、内蔵されているムーブは Cal.861です。このCal.861は、何度か改良を経て40年後の現在でもほぼ同じものが使われています。 40年以上前の時計なのですが、これは私の「実用時計」です。精度は+-10秒程度ですし、秒針停止機能はありませんが、分針をあわせるときに針が飛んだりはしません。水道でジャブジャブ洗うほどの防水性はありませんが、普段使い程度の防水性は今も確保されています。宇宙で使うためのNASAのテストに合格しただけあって、対衝撃性もあり、頑丈に作られています。スクリューバックの裏蓋の下にはムーブメントを守るためのインナーケースがあり、このため防磁性もある程度確保されています。Cal.861は、ほぼ現行ムーブメントと同じですから、万が一壊れたときのメンテナンスもまったく心配ありません。 ヴィンテージ時計=コレクション時計と思いがちですが、ヴィンテージ時計でも実用時計として十分使えるものもあります。

機械式時計のどこがいいのか? その17

今回は、「実用時計」について考えてみます。例えば、ロレックスは最高の実用高級時計である、という言い方をされます。でもよくよく考えてみると、「実用時計」、これって不思議な単語ではないでしょうか?実用されない時計というのはそもそもあるんでしょうか?しかしながら、実用時計という言い方がある(英語にも同じような単語があるようです)からにはその対極の概念としてコレクション時計が存在する、あるいは、コレクションまたは工芸的価値のあるものが「時計」というカテゴリーには存在するということになります。 つい先立ってのオークションでは、ブレゲの懐中時計が二個6億円で落札されました。また、1943年製のパテックフィリップの純金製の永久カレンダー腕時計が2010年当時5億円で落札されたこともあります。これらは博物館で飾られる類のものでしょうから、実際に腕につけて使うことはないでしょう。まずこれらは純然たるコレクション時計であるといって間違いないと思います。とすると腕時計には、少なくとも実用して使われる時計と、コレクションをして楽しむ時計という二つの種類が存在することになります。 次は「実用高級時計」です。これもまた不思議な単語です。実用高級時計というものがあるとすると、実用中級時計、実用低級時計というのが存在してもおかしくないです。しかし、これらの単語はあまり聞きません。かわりに、ミドルレンジの機械式時計、低価格帯の腕時計という言い方はよく聞きますから、ここでの「高級」というのは、価格のことを言っているんじゃないかと考えてまあ間違っていなさそうです。 ここで冒頭の「ロレックスは最高の実用高級時計である」というフレーズをリフレーズすると、「ある程度高価格帯の実用に供される時計のなかでは、ロレックスは最高である」ということになります。おもしろいですね。高い時計が実用上いいというわけでは必ずしもない、というのが、この言い回しにも表われています。高価格帯の時計には、実用というよりコレクションとして楽しむ、審美性を楽しむことを目的としている場合があると捉えることも可能です。 さて画像は、ギャレットのExcel-O-graphです。MINT状態のこの時計は、私の「コレクション時計」です。ほとんど外に連れ出しません。1960年代後半の製造で、43mmという大振りなケースに名機エクセルシオパークを搭載しています。この時計がいいのは、航空計算尺を供えたそのデザインと大きさ、それとやはりカラーリングでしょうか。5分ごとに赤く塗られた30分計と赤いクロノグラフ秒針、センターは濃いインディゴブルー、 分秒目盛りは白でプリントされ、ゴチャっとしがちな文字盤でもしっかり視認性が確保できるようになっています。ケースの仕上げなどは、それはパテックなどと比較するとお世辞にもよいとは言えませんが、回転計算尺を供えた航空時計としては、必要十分に堅牢に仕上げてあります。 かつてのクロノグラフの名門として有名なギャレットですが、現在でも会社として存続しています。最近ではフライトオフィサーのミュージアムエディションなどを出したりしています。ウェブページは、 http://www.galletwatch.com/ です。

機械式時計のどこがいいのか? その16

機械式時計は2、3万円という比較的手頃なモノから、1000万円以上という普通の人には非現実的なモノまで多種多様です。しかしながら、一つだけすべての機械式時計に共通することがあります。それは、時計は特別なものである、そういう時代に職人が一個一個手作りしていた時代のタイムピースを祖先として持つというところになります。 ここで一つ附言があります。パチ、または海賊版というのは、ここでは機械式時計とは扱いません。これは機械式時計に似てはいますが、まったく違うモノです。パチモノの祖先は、いわゆる絵画などの贋作というべきで、これは機械式時計のカテゴリーではありません。モノの制作動機がまったく違います。新しいモノを創るとき、例えば機械式時計の場合は精度を出そう、あるいは新しいコンセプトを世の中に問おうと思って造ります。価格帯が低い場合は、高価な場合と比較して制約条件が大きくなりますが、それでもその制約条件の中で、デザイナーやエンジニアたちは最善を尽します。一方、パチまたは海賊版と呼ばれるものは、すでに価値が高いとされるものを真似て人様の目をごまかそうと思って作られたものです。動機がいやしく、当然ながらメンテナンスのことなど考えてもいません。 69年当時1万5千円で売られていたホンモノのセイコー5は、40年後の今もメンテナンスされ、似たような価格帯で入手できます。一方、その倍以上の値札がつくこともあるパチモノは、基本的に使い捨てと思って間違いはないでしょう。もともと 「末永くメンテナンスして使ってもらおう」なんてことはまったく考えてないモノです。 今回の画像は、ロンジン最後の自社製ムーブメント、ツインバレルL990の裏蓋を開けたところです。薄型の自動巻、60年代当時、これはかなりのホットトピックでした。腕時計が特別なものであった時代、軍用時計やクロノグラフにはその機能上大振りなものがありましたが、やはり一般的なドレス時計としては薄型でした。自動巻の機械は、腕の振りでゼンマイを巻き上げるためのローターと巻上機構が必要になり、手巻きよりも厚みが増します。堅牢な機械を好んだロンジンは、60年代の薄型自動巻の開発競争には遅れをとっていましたが、最後にこのような優秀なムーブメントを発表します。歴史にifはありませんが、もし、これがもっと早く、60年代に出ていたら。。。と思ってしまうくらい素晴らしいムーブメントです。

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