機械式時計の位置付け、構成要素、クオーツとの比較までを見てきました。さていよいよ本題に入れる準備ができてきたようです。では機械式時計というのは、いったい、どこがいいんでしょうか? 機械式時計は、トルクが大きいために、見栄えのいい大きい針を回せます。クオーツ時計と比較すると、デザイン的には柔軟性があるといえるでしょう。また雷などの電気ショックに強い点も優位です。しかし、明らかに優位にあるのはそのくらいではないでしょうか?たしかにクオーツ時計の部品保有年数はそんなに長くはないですが、部品がなくても電池交換さえ可能であれば、少なくともそれなりの期間、10年程度は使えます。普通のモノで10年使えれば十分いいのではないでしょうか。 一方できちんと作られている機械式時計は、保守さえ行えば50年、60年と使えますが、その保守には1ヶ月程度の時間および数万円~場合によっては数十万円の費用が必要になってきます。 そこまでして保守をして、ただ時間を計測するというツールのために労力を費すのは何故なんでしょうか?そこまでの価値があるという理由はいったいどこにあるんでしょう? 画像はロンジンL990。この時計の素晴しい点はそのムーブメントにあります。現在のロンジンは自社ではムーブメントを作っておらず、スウォッチグループの中堅的なポジションで良質な時計をリリースしています。しかし往年のロンジンは一味違いました。ロンジンL990は、70年代、クオーツショックの真っ只中にリリースされたロンジン渾身の作、最後の自社製ムーブです。クオーツ同等の精度を出すことを目標に開発され、機械式時計で精度を出すために、ツインバレルを採用しています。つまり、普通の時計はゼンマイが一個なのですが、この時計にはゼンマイが二個入っています。他にも、わずかな腕の動きで巻き上げるダイナミック・アイドリングや秒針停止(ハック)機構、日付のクイックチェンジ、カレンダー早送り機構など、さまざまな機能をわずか2.96mmの薄さに収めています。 手に持つと、ずっしりとした重みが伝わります。現在ではこのムーブはレマニア8810として引き継がれており、ブレゲなどの高級ラインなどに使われています。初期のロジェに多く使われているRD57のベースもこのムーブです。
おおよそ機械式時計とクオーツ時計の差が出揃いました。再度まとめてみましょう。 精度については、機械式時計はいわれているほど悪くはありません。一日10秒~20秒程度というのは十分実用に耐える精度で、原型の誕生からおおよそ300年以上たつゼンマイ時計という古い仕組みの機械としては驚異的な精度と思えます。また、機械式時計はトルクが大きく、大きく見易い針を使えます。ところで一方、精度をだすための仕組みを一秒に数回も回転するアンクル型脱進器に頼っており、その上トルクが大きいために部品の摩耗が大きくなります。そのため定期的なオーバーホールが必須になります。 一方、クオーツ時計はトルクが抑え気味にしてある上に、一秒間に数回も回転するような機械部品がありません。そのため、部品の摩耗が機械式時計に比べて小さく、オーバーホールの必要性がそう高くはありません。オーバーホールするのが望ましいのは間違いありませんが、電池交換だけでそれなりに長い間正確に動作することが多いのはそのためです。 さて精度、視認性と少し差はありますが、機械式時計とクオーツ時計と比べたときに、一番の大きな違いはやはりこのメンテナンス性でしょうか?機械式時計はメンテしないとただの鉄のカタマリです。ところが一方、定期的にメンテナンスさえしてあげれば50年以上前の時計でも十分実用できる精度で動き出します。 画像は1950年代のオーデマピゲの名作、VZSScのムーブです。ムーブメントの上部にテンプが見えます。
さてクオーツ時計と機械式時計の比較の続きです。精度、トルクとみてきましたが、今回はメンテナンスの差、オーバーホールについてです。 腕時計のオーバーホールの場合、おおよそ次の手順からなります。 外装チェック、洗浄 防水チェック、必要であればリューズ、パッキンなどの部品交換 ムーブメントの分解、洗浄、注油 この内、外装や防水のチェックについてはクオーツでも機械式でもそう手間は変わりません。大きく違うのはムーブメントの分解、洗浄、注油工程になります。部品数の多い機械式時計の場合は、この工程がそれなりに手間がかかります。機械式時計は、比較的大きなトルクで複数の歯車を駆動します。そこで、部品の摩耗対策が必須になります。このため、とくに摩耗が大きい歯車の軸には受け石と呼ばれるルビーを配置し、そこにオイルを塗布します。画像は1968年製造のオメガ861。裏蓋を開けたところから見えるルビーの位置には矢印を置いてます。画像で下のほうに見えるのがテンプで、これがオメガ861の場合、一秒あたり6振動、一分では360振動もします。 一方、クオーツ時計は、モーターで針を駆動し、そのトルクは機械式時計と比較すると弱いです。その上クオーツ時計は部品点数が少なく、機械式時計のテンプのようにせわしなく回転する部品はありません。クオーツ時計の場合、一番速く回転する部品は秒針で、1分で一回転します。機械式時計と比べると部品に与える負荷が非常に小さいのが分かります。 なお、クオーツ時計もたいていの場合受け石があります。これは一つのモーターで複数の針を駆動するからで、その場合、基準となるモーターの回転数を調整する歯車が必要になります。その歯車は、ある回転軸の回りを常に回転していますから、摩耗対策が必要であれば、そこにはルビーが置かれるでしょう。世界最初のクオーツ時計、アストロンは8石のムーブメントを搭載していました。 そして、受け石があるということは、クオーツ時計も分解、洗浄、注油というオーバーホールはしたほうがいいということになります。しかしながら、クオーツ時計の場合、部品の損耗が機械式時計よりは段違いに小さく、結果的に電池交換だけで10年とかは普通に動くことになります。ただしケースの防水性の劣化は、機械式時計、クオーツ共に変わりませんので、防水性が必要な時計は定期的にチェックしましょう。
機械式時計のどこがいいのか? その12 クオーツ時計は、機械式時計と比較してトルクが弱く、針のデザインに制約があるという話でした。トルクという量は、回転軸からの距離と重さを掛けたものになります。時計でいえば、針が長ければ長いほど、重ければ重いほど、運針には大きなトルクが必要になります。ミヨタのムーブ同士の比較では、分針の運針トルクに3倍以上の差がありました。0.1g以下の針で3倍というのはかなり大きな差です。昨今のわりと大きめのクオーツ時計の針が視認性を確保できる範囲で薄い針を使ってあり、またできるだけ短い針を使うようにデザインされているのが分かってきたような気がします。 画像は セイコーブライツのエグゼクティブ電波ソーラーとアナンタのメカニカルクロノグラフです。クオーツの視認性も悪くはないものの、やはり針の存在感の違いは歴然としています。 ところで、トルクが弱いことは悪いことばかりではありません。機械式時計は、トルクが強いそのために機械の摩耗が激しく、またとくに摩耗する箇所にはその対策のためのルビー(石)が必要になります。定期的なオーバーホールは必須です。一方、弱いトルクで少ない部品を駆動するクオーツは、オーバーホールしなくても電池交換のみで10年使えているという例も少なくありません。 時折、機械式時計は電池を使わないからエコだという言い方をされます。しかし、これは機械式時計がきちんとメンテナンスされていることが前提です。メンテされていない機械式時計は、ただの鉄のかたまりです。電池さえ交換すれば使い続けられるクオーツ時計とどちらがエコか、きちんとメンテナンスすることを前提にしないと、いちがいには言えないような気もしてきます。
さて、クオーツ時計のトルクが分かったところで、機械式時計のトルクとの比較をしましょう。今回もシチズンの子会社、ミヨタのムーブメントを参照します。取り上げるのは、Cal. 9015、ミヨタが30年ぶりに開発したシチズンの機械式時計のムーブメントです。広く使われているETA2824-2の置き換えとしても使えることをターゲットとしているようです。Cal.9015のムーブ径はETA2824-2と同じ25.6mm、厚さはすこし薄い3.9mm。42時間のパワーリザーブ、8振動、デイト、秒針停止機能と十分なスペックです。このムーブをチューンしたものは、ザ・シチズンの機械式時計にも用いられています。 Cal.9015 とETA2824-2との比較をまとめてみると以下になります。 さて、このCal.9015 の針を駆動するトルクに関する仕様は以下のようになっています。 これを見ますと、分針で1.25uN・mという駆動力が定義してあります。これはクオーツのOS-21(0.4uN・m)のトルクと比較すると3倍以上です。トルクが3倍ということは、長さが同じであれば3倍の重さの針、重さが同じであれば3倍の長さの針を使えるということになります。 画像はザ・シチズンNA0000-59Eです。やはり3倍のトルクで針を駆動できると、針の印象がかなり違うように見えます。
さて、クオーツ時計もいろんな技術革新で「視認性」については良くなってきているということが分かってきました。遠くからパッと見て分からないような細かい仕上げを除けば、昨今のクオーツは視認性に関してかなり改善されているようです。 しかしながらいくら技術革新があるとはいえ、電池で駆動される以上、電池の持ちを優先して、針を駆動するトルクを小さくしなければならない、これは依然としてクオーツ時計の大きな制約条件でしょう。さてこのトルク、実際にどのくらい機械式時計と差があるんでしょう。これを比較するために、前回出てきたミヨタのムーブメントを見てみましょう。ブレラが使用しているミヨタのムーブメントはOS-21です。このムーブメントの仕様書には以下のように書かれています。 つまり、バランスできる針の重さは分針で 0.4uN・m となっています。すこし妙な単位がでてきましたね。これはトルクを表わす単位です。トルクって意外と説明が難しいのですが、ムーブメントを例えていえば、電動アシスト付き自転車でペダルを回すようなものと考えればある程度はあっているかもしれません。この時に重要なのは、クランクの長さがトルクに大きな影響を与えるということです。クランクが長いと軽い力でもペダルをらくらく漕げます。これはアシストモーター側からいうと、長いクランクをアシストするには大きな力(トルク)が必要になるということです。 0.4uN・m ではあまりに馴染みがない単位ですから、馴染みのある単位に置き換えましょう。これはおおよそ 4mgf・cm に相当します。つまり、1cmの針の先に 0.004g の重さ、または5mmの針であれば0.008gの重さがついていても駆動できます。時計の針ってとっても軽いんですね。
さて、クオーツ時計と機械式時計との比較中でした。まずは、よく調整された機械式時計の精度はクオーツ時計と比較してもそれほど大きい差はない。時計雑誌にはよくクオーツのほうが振動数が高いから精度がいいと紋切り型に書いてありますが、いちがいにそういうことは言えなさそうだということが分かってきたのかと思います。 次に考えてみたいのが「視認性」です。電池で駆動するクオーツ時計は、電池を長持ちさせなければいけない。その結果、トルクを弱めにしなければいけなく、機械式時計のように太い針を運針させることが難しい。従って、視認性は悪くなることが多いという話でした。これは一般論としてよく言われますし、私もそう思い込んでいました。しかし、最近のファッション時計では45mmとかの大きいサイズもありますし、視認性のよいクオーツ時計もあるように思えます。 画像は、ブレラというイタリア製の時計です。機械式時計に詳しい人は、針の仕上げや文字盤の仕上げなど、いろんなことでまだまだだとおっしゃるでしょうけど、例えばケースの仕上げとかはそれなりによさそうだし、文字盤上に置かれた立体的なアプライドインデックスもいいように見えます。もちろん仕上げがそこそこいいということは、値段もそれなりで10万円弱の値札がついてますが、なにより、これはサイズが44mmとかなり大きく、このサイズでこの針の大きさだと「視認性」はそんなに悪くなさそうです。 クロノグラフでは例えばオバマ大統領の時計として有名はアナログクロノグラフなどもあります。中国製でムーブメントはシチズンの子会社ミヨタ製、サイズは41mmです。 次の画像はグランドセイコーSBGX067。ベーシックな年差クオーツモデルです。これになると文字盤の仕上げといい、針といい、一般的な機械式時計とほとんど遜色ないように見えます。ムーブメントはセイコー製9F62 。 なんだかクオーツ時計の視認性もそれなりにいいように思えてきました。
一般的な機械式時計とクオーツ時計の比較をしましたが、もうちょっと掘り下げた比較をしてみましょう。まずは時計に求められる大事な機能、「精度」です。よく時計雑誌には、クオーツ時計は、一秒あたりの発振周波数が高いから高精度、と書いてありますよね。これって本当に正しいんでしょうか? クオーツ時計の用いる水晶振動子の基準周波数はおおよそ3万2千振動です。機械式時計は、高振動とされるエルプリメロでもテンプは10振動しかしません。これって、ものすごい差ですよね。32000円あれば、10円のチロルチョコが3200個買えます。周波数が高いから高精度というのなら、ふつうのクオーツ時計で機械式時計の3200倍は高精度であって欲しいです。でも実際には、機械式時計の一日あたりの誤差を10秒、クオーツ時計の誤差をおおよそ一ヶ月あたり10秒として比較すると、たかだか30倍でしかありません。期待した精度の1/100です。チロルチョコが3000個買えると思っていると、30個しか買えなかったというのではなんとなく腑に落ちません。 気になってきましたので、基準周波数を発生させる水晶振動子の仕様を見てみましょう。これは、ケータイなどに使われる比較的高精度のクオーツ振動子のスペックです。 Frequency toleranceというのが発振周波数がどの程度安定しているのかという仕様になります。PPMというのは、最近では千葉の断水のときにも出てきました。ホルムアルデヒドなどの検出単位にも使われています。「100万分の1」= 0.0001% のことです。つまりこの振動子は、32000Hz+-0.002%の精度で安定しているということになります。こう書くと、なんだかすごくいいモノのような気がしますが、実はそうでもありません。この精度だと、一日あたり+-1.7秒、一ヶ月では+-51秒もの誤差が出てきます。 そしてこの精度が、量販されている電波置き時計の精度になります。説明書には、電波を受信しないときは平均月差+-30秒と書いてあると思います。これがおおよそ20PPMのクオーツ振動子の未調整の精度です。一方で一般的なクオーツ腕時計の精度はおおよそ月差+-15秒です。これは実は調整済みの精度ということになります。 さらに精度を高めたいときは、水晶の発振周波数の温度特性を調整します。代表的な温度特性を以下に示します。室温の20~30度ではほぼフラットですが、10度になると0.8秒、0度になると2.2秒遅れがでてきます。セイコーの年差クオーツ、ブライトリングでいうスーパークオーツはこの温度特性も調整します。この結果、年差クオーツで+-10秒(0.3PPM)、スーパークオーツで+-15秒(0.5PPM)という精度を実現しています。
機械式時計と比較されるクオーツ時計についての続きです。クオーツ時計は、精度に優れ、耐衝撃性にも配慮でき、安価です。時間を知るための機械として、これらはとても大きなアドバンテージと思えます。 では、クオーツ時計に欠点はないのでしょうか?クオーツ時計といっても、人間が作った機械ですから当然制約があります。機械式時計の大きな制約がムーブメントにあったように、クオーツもその駆動部分に制約条件があるかもしれません。 まず、機械式時計はゼンマイを動力として動きますが、クオーツ時計は電気を動力源として動きます。機械式時計は基本的には毎日、動力源を巻きあげてくれるということを前提にすべての機構が設計されています。その一方でクオーツ時計は3年ほどは電池を取り換えなくても動くことを前提としています。ということは、クオーツ時計はできるだけ電池を長持ちさせるように、節約して使うように設計するのが大前提になっているということです。このため、大きな針をブン回すよりも、控え目な軽い針を一秒ごとに動かします。これは、デザインの上での大きな制約条件になりますし、あまりに小さな針にしてしまうと視認性の問題にもなってきます。 また、電気で動作するために、ウィークポイントは電気になります。つまり、雷などのサージ電気には弱いです。滅多にはないことですが、パイロットが飛行中に雷にあい、クオーツ時計が狂って使えなくなり、それ以来ブライトリングを持ち歩くようになった、という話を実際に聞いたことがあります。 最後に、メンテナンスの制約があります。クオーツ時計のムーブメントは大量生産の電子機器です。つまりは部品の保有年数は基本的には7年から10年という一般的な電子機器の基準になります。部品があればセイコーでも古い時計のメンテナンスは受け付けてくれますが基本は7年(グランドセイコー、クレドール、ガランテは10年)になります。これはきちんとした機械式時計のメーカーとは大きな違いです。例えばロレックスではおおよそ30年です。この年数は、あれだけ多量に機械式時計を生産する会社にしてはかなり誠実な年数に思えます。またブライトリングでは、1950年代の機械式時計のメンテナンスを受け付けてもらったことがあります。パテック、バセロン、オーデマピゲ、IWC、ロンジン、オメガなども同様の体制を整えています。費用はそれなりにかかりますが、古い時計でもメーカー修理に出すことができるというのは、その時計を使い続ける上での大きな安心材料といえそうです。 表にまとめてみます。ここで取り上げているのはあくまで代表的な例になります。時計はいろんな目的で作られます。よりよい精度の時計としてはクロノメータ規格、年差クオーツなどがありますし、ムーブメントとしては、機械式とクオーツのハイブリッド、キネティックやスプリングドライブなどもあります。部品点数では機能によってかなり変わってきます。クロノグラフだと300以上の部品を使うこともあります。ゼンマイの持続時間としては、7日巻きというのもありますし、最新のムーブメントでは巻上から3日持つ(70時間のパワーリザーブ)というのも増えています。
機械式時計の位置づけ、構成要素、工業製品としてのデザイン上の制約、幅広い製品ラインアップまでを駆け足で見てきました。そういう、ある制約に基づいて作られた工業製品、機械式時計。そういう製品のどこがいいんでしょうか?それをもう一度検討してみます。 まず、いい、悪いを決めるというのは、簡単な話ではないです。いい、悪いというのは絶対的な判断基準ではなく、相対的な価値観です。AはBと比較していい、ということはいえますが、Aは絶対的にいい、Bは絶対的に悪い、ということはできません。 モノの価値を決めるのは人間ですから、ある人が「これはいい」といえば、それはそれでいいモノである、といえます。判断基準となる好みは人によって千差万別です。ロレックス デイトナがいいとおっしゃる方もいらっしゃるでしょうし、パテックフィリップの名作Ref.96がお好きな方もいらっしゃるでしょう。また、セイコー5がいいという方もおられるでしょう。 次に、いい、悪いの比較対象です。現代のわれわれはきっと「機械式時計」という場合、比較対象としてクォーツ時計を思い浮べると思います。「時間を知るだけだったら、ケータイでいいじゃん」「クォーツが正確だし、わざわざゼンマイ巻かなくていいし、なんでローテクの機械式時計?」まったくおっしゃる通りです。そこで、少しクオーツ時計について見てみることにします。 クオーツ時計は、一日に10秒程度は誤差がある機械式時計と違って、その誤差は一カ月で10秒程度におさまります。ざっと30倍は精度がいいことになります。また耐衝撃性も高いです。機械式時計は、テンプが一秒間に数回の往復運動をすることで一定の時間を刻みます。この部分が、どうしても衝撃に対しては弱くなります。クオーツ時計の場合、一定クロックを生成するのは水晶の固体振動子になりますので、衝撃に対して強くできます。そしてクオーツ時計は電子機器ですので、部品点数は機械式時計に対して少なくできます。100以上の部品を必要とする機械式時計に対して、おおよそ約半分の部品数で構成されます。しかも、電池式ですからいちいちゼンマイを巻き上げなくても、使いたいときに使えます。精度はいい、衝撃にも強い、使い勝手はいい、しかも電子機器ですから安価です。ここまで揃っている時計があるのに、なぜ機械式時計がいるんでしょうか。 実際にクオーツ腕時計の発明の結果、1970年代には機械式時計は絶滅寸前まで追い込まれてしまいます。1969年、ゼニスは、自動巻きクロノグラフとして有名なエルプリメロを発表しますが、そのわずか3年後には、アメリカのラジオメーカーに買収され、機械式時計の生産中止を言いわたされることになってしまいます。
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