本稿は、以下の2009年に行なわれたジェラルド・ジェンタへのインタビュー記事の翻訳です。ジェンタは2011年に亡くなっていますから、このインタビューは、ジェンタの晩年の貴重なインタビューだと思えます。
閑話休題。ここまでをまとめると、ジェンタはこの特許に関して、以下のことを特許の目的として主張していることが分かる。 既存の時計の防水の不十分さ、主として裏蓋とガラス部分のパッキンに頼る防水についての改善 新しい美的外観 簡単な組立てができる構造 まず、1.についてだが、この特許は1971年の12月に出願されているから、ここでいう既存の時計というのは1960年代の時計の構造を指していると考えるのが妥当だろう。当時すでに、スクリューバックの裏蓋は存在していたが、風防としてサファイヤはまだ一般的でなく、風防にはガラスまたはプラスチックが使われていた。そして、風防部分と裏蓋部分との防水を細い円環状のパッキンに頼っていた。ジェンタはそれを指摘していると考えられる。 その1960年代、ジェンタは、オメガでいくつものデザインを担当していた。その最初期の作品の一つが1962年、オメガ・コンステレーションのCラインケースとされている。当時は時計のデザイナーはケース、ダイヤル、ブレスレットなど、それぞれの部品を別々に担当しており、また、それぞれのデザイナーの仕事が名前に残るような時代でもなかった。当時は一デザインに付き15フラン程度しか受け取っていなかったと、ジェンタ夫人は回想している。 ジェンタは、オメガとのこのような仕事を通じて、より大きな仕事にチャレンジするようになり、ロイヤルオークのデザインで名を知られるようになるが、それはずっと後の話である。いまでこそ、パテック・フィリップのノーチラスおよびIWCのインヂュニア・ジャンボのデザインは、ジェンタの作品として有名だが、当初はそれを公表することはできなかったと生前のジェンタは語っている。 写真は壮年のころのジェンタ夫妻である。
Last updated on September 3rd, 2021最初に自動巻クロノグラフを作ったのはどこか、番外編です。 セイコー6139スピードタイマーの発表当時のカタログを添付します。セイコーの広報部からスキャンしていただきました。 5月下旬に発売します、というカタログの文面から少なくとも69年5月以前のアナウンス用の資料だと分かります。 日付、曜日を備えたストップウォッチ機構付き自動巻き時計の量産は世界初と謳っています。その通りですね。興味深いのはここでストップウォッチという言葉を使っているということです。スイスではクロノグラフという言葉を使っています。 価格はメタルバンド付きで16,000円と18,000円。 タキメーターについて、平均時速の計測や、仕事の単位時間を計測することができ、企業の工程管理にも使える「テクニカル・ウォッチ」という位置付け。 興味深いのは、やはり「自動巻時計+ストップウォッチ機能」というマーケティング用の位置付けでしょうか。これでは一般に対する訴求力としてはあまり強くはなさそうです。日常でストップウォッチってそんなに使わないですよね。企業の工程管理に使うような用途であれば、専用のストップウォッチで計測するでしょうし、ストップウォッチ機能付き時計と言われても、あまり欲しいと思えません。1969年当時のセイコーがマーケティングに苦心していた様子が伺われます。 ところでスイスでは、これはすでに解決済みの問題でした。例えばブライトリングは、「クロノグラフがこんなに便利なのに売れないのはなぜか」というマーケティングの苦心にすでに第二次大戦後の40年代後半から直面しており、50年代にはアメリカで大キャンペーンを行っています。1960年後半のこの当時は、クロノグラフは、ストップウォッチとは別のカテゴリーですでにマーケットを確立していました。時計としての機能はきちんと保ちながら、いつでも必要な時に経過時間を計測することができるといういわばツールウォッチというカテゴリです。 アポロ13号の自動制御装置が故障し、ジェットの噴出時間の手動計測が必須になったときに、計測ツールとして使うことができるのはオメガのスピードマスターだけだったというのはあまりにも有名なエピソードです。一般人の生活にアポロ13号のトラブルほど緊急の事態が起きることはほとんどないでしょうが、いつでも必要なときに身につけているもので時間を計測できるというのは、やはり便利な道具といってよいような気がします。 SEIKO_5_SPORTS_SPEED_TIMER_release
前回、前々回と日本の製造業のコストを見てきた。工場を稼働させ、原材料を最終製品にするコストはそう小さいものでもなかった。 今回は、Swatch groupの財務報告書を見てみよう。Swatchは、ブレゲ、オメガ、ロンジン、ティソといった時計業界の有名ブランドだけではく、ハリー・ウィンストンやカルバン・クラインといッた宝飾、ファッションブランドもその一員に数える一大企業である。 2019年度の報告書によると以下である。日本とは基準が違い、売上原価は記載されていないが、人件費と原材料費が記載されている。(1スイスフラン=112.2円換算) 総売上高: 924,864 (百万円) 営業利益: 114,780 (百万円) 原材料購入費: 179,520 (百万円) 人件費: 289,251 (百万円) その他の業務費用: 300,696(百万円) この内容からも比較してみると興味深いことが分かる。 セイコーの場合、原価の売上に対する比率は約6割であった。Swatchの場合、原材料購入費および人件費を合算して原価とすると、おおよそ5割となる。人件費には工場以外の人員も含まれているだろうから、おおよその目安として、Swatchの製造原価は、セイコーのそれよりも1割以上は低いと考えてもよいだろう。 Swatchは、その他の業務費用が著しく大きい。おそらくこの大部分が広告宣伝費用と思って間違いないだろう。セイコーの時計事業の売上は約1400億円であり、時計事業を含む全体の広告宣伝費に約170億円を計上している。仮にこの広告宣伝費がほとんど時計事業に使われているとすると、その割合は、売上の約1割に相当する金額である。Swatchの場合、その他の業務費用の割合が約3割にも達する。Swatchはオメガ、ロンジン、ハリー・ウィンストンといった一流ブランドをワールドワイドに展開しているから、広告宣伝費がセイコーよりも巨額を要するのは間違いない。 さて、今回の時計は、往時のOmegaのドレスウォッチ、DE VILLE である。シリアルからムーブメントは1969年製造と思われる。
さて「買えないほど高い」と言われている贅沢ブランド品だが、買うのが不可能とはいえないにしても、やはり高額品といわれる部類に入る贅沢ブランド品も多いということは分かった。 では次に、コストに対しての価格設定を検証しよう。 贅沢ブランド品は、作りが違う。材料もいいものを使っているし、職人の工数もかかっているとよく言われる。それはそうであろう。そして職人の人件費や材料費、広告宣伝費など、製作および販売コストが相応にかかっているのであれば、その販売価格は「高い」といってもそれが適正価格であるといえるのではないだろうか。 これを検証するために、贅沢ブランドの財務状況を参照してみよう。また、コストが高いか適正か判断しようとするのnであるから、比較対象も必要である。そこで、贅沢ブランドの代表として、 LVMH (モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン グループ)、Swatchグループ、日本代表としてはセイコー、あとは他業種からApple、Panasonicなどをピックアップして比較考察を行ってみたい。 今回の時計はオメガシーマスターのヴィンテージモデル。Baby Proplofとも呼ばれることもあるダイバーモデルだ。
さて世の中にモノが溢れている現在、なぜわざわざ入手しにくい、しかも高価な本物を入手しなければならないのか?法律論で片付けるのは簡単だが、それではこのブログも一行で終わってしまう。そこで、まずは「なぜ人は偽物を買うのか」について考えてみたい。 偽物を購入するためには、購入する動機が必要だ。そこで、まず最初に偽物を購入する動機を考える。おそらく以下くらいではないだろうか。 知らなかった:ネットで安いから買ってみたら偽物だった。 外観: 本物か偽物かなんてどうでもいい。自分がカッコいいと思えればそれでいい。 社会性: 本物なんて不当に高いだけだし、偽物をつけるのはそれに対するアンチテーゼ。 価格および入手性: 偽物と知っていたが、本物は高くて買えないし、そもそも希少で手に入らない。 実際に偽物をつけていらっしゃる方も電車や公共の場所で散見するから、これらの何れにもそれなりの説得力があるのであろう。 そこで、これらの項目それぞれについて、それがどのようなリスクを含んでいるのか、検証を試みたい。その結果、もしも法律以外のリスクがゼロとなるのであれば、それは法律以外に人が偽物を購入する動機を規制するものは何もない、ということになるはずだ。 今回の時計は1960年代のオメガコンステレーション。時計本体はもちろん風防、ブレスレットまですべてオリジナルの逸品だ。50年以上前に作られた時計だから無理はさせられないが、それでも日差5秒程度で快調に動作している。
デイ・デイト付き自動巻スピードマスター。いわゆる竪琴ラグのプロフェッショナルケースに、ムーブメントとしてオメガ1045を搭載した唯一のモデルである。オメガ1045は、後年のレマニア5100であり、ムーブメントの初出はl973年(昭和48年)とされている。 いまから50年前の1969年(昭和44年)にセイコー社が世界初のクオーツ腕時計を発表、昭和40年代後半のこの頃、すでにクオーツ時計が世の中を席巻しつつあった。しかし、スイスの各時計メーカーは、自動巻クロノグラフのマーケットを諦めてはいなかった。タグホイヤー、ブライトリングらが1969年に最初の自動巻クロノグラフをリリースしているし、ゼニスもエルプリメロを1969年に発表している。オメガも1971年(昭和46年)には初の自動巻クロノグラフ1040を搭載したスピードマスタープロフェッショナル MK III、次いで1973年には Mark IV をリリースする。 本モデルに搭載されたムーブメント、オメガ1045は1973年初出とされる。かのAlbert Piguet 氏らによって、オメガ向けにリリースされた自動巻クロノグラフの意欲作である。デイ・デイト表示に加え、24時間計表示、タフな耐ショック性などを備えていた。このタフさはツールウォッチメーカーに高い評価を得、後年、Sinn、Fortis、Tutimaなどが軍事用、航空宇宙用のモデルにこのレマニア5100(オメガ 1045)を採用することとなる。 時を同じくして1973年には自動巻クロノグラフのベストセラー、Valjoux 7750 がリリースされている。ところがこのValjoux7750は、そのわずか二年後、1975年には生産中止となってしまう。理由はクオーツの普及である。オメガも、1970年後半のスピードマスターの新製品は音叉やクオーツに移行してしまうことになる。 この10年(おおよそ1975-1985,昭和50年ー昭和60年ごろ) は機械式時計にとって冬の時代であった。しかし、1980年代(昭和55年~)の初頭になってくると機械式時計の復興の機運が盛り上がってくる。Vajoux 7750の再生産が開始され、1984年(昭和59年)には新生ブライトリングからアーネスト・シュナイダーによるクロノマットがリリースされる。また、ゼニスからエル・プリメロの再リリースがアナウンスされたのも1984年である。オメガも1985年(昭和60年)、10年ぶりに再び自動巻のスピードマスター MarkV をリリースする。 それに続く自動巻のスピードマスター、本モデルのリリースは1987年(昭和62年)である。1988年には、普及機である自動巻スピードマスター・リディースドの発表によって生産中止になっているから、このモデルの生産年数は、1987-1988年のわずか二年である。そして、オメガにとってはこのモデルが最後のオメガ1045の搭載モデルとなった。 その生産本数の少なさから、また当時この自動巻クロノグラフは多くドイツ/EUマーケット向けに出荷されたこともあり、とくに日米では極端に数が少なく幻とさえ言われることもあるモデルでもある。著名なオメガ.コレクターであった Chuck Maddox氏(故人。シカゴ在住であった)もそのあまりのレアさ故に「Holy Grail」とニックネームをつけたほどであり、日本でときにホーリーグレイル、聖杯モデルと呼ばれる由来はここからきている。 リファレンス 376.0822 製造年 1987-1988 キャリバー オメガ1045 総生産数 ~1800
実用時計の続きです。実用時計とコレクション時計とを分けるものは何でしょうか?現代社会で実用時計とされる条件をいくつか挙げてみましょう。 防水性 … 日常生活防水で普段は問題ないでしょう。しかし夏は水道の水でジャブジャブ洗いたくなります。また夏場の遊園地で霧状の水をかけられることもありますが、あれってけっこう危険かもしれません。水が水蒸気になると、わずかな隙間からでも侵入しやすくなります。 対衝撃性 … 衝撃に弱いムーブメントですと、スポーツの時には外すなど、気を使って取り扱うのが望ましいです。 精度 … 少なくとも日差+-30秒以内であって欲しいです。+-5秒以内だと素晴しいです。 針あわせの容易さ … 秒針停止機能があれば、分針と秒針とをきっちりあわせられます。また、リューズを押し込んで分針をセットするときに針飛びをしないのも大事です。これで針飛びする時計は意外とあります。 防磁性 … スマートフォンやPC、TVなど電気製品があふれる現代では、ある程度はもはや仕方がありませんが、防磁を考えている時計であればある程度は防げます。 メンテナンス性 … 壊れたときに修理してくれるところがあるのかどうか。また傷つけてしまったときも、ケースを磨くことができるのかどうか。一般的にドレス時計は薄型で仕上げがいいので、キズには弱いです。 携帯性 … 大きくて厚い時計ってかっこいいですが、携帯性はあまりよくないです。 所有感 … いつも身につけているものですから、持っていて満足感がある時計であって欲しいです。 例えばロレックス、オメガ、ブライトリング、IWC、ロンジンあたりであれば、上の条件はある程度満たされるでしょう。中でもロレックスは実用時計最高峰と言われるだけあって、これらの条件のほとんどを満たします。ところで一方、パテックフィリップやオーデマピゲ、ヴァシュロン・コンスタンタンなどの雲上時計と称される時計になってくると、日常生活防水の薄型ドレス時計や繊細なムーブを搭載しているスポーツ時計も出てきます。 どちらがいいということはありません。最終的にはライフスタイルと好みになってくると思います。夏場に遊園地にいったりプールで泳いだりするときに機械式時計をつけるかつけないかはお好みですし、そもそも遊園地なんていかないという人もいらっしゃると思います。 画像は、ヴィンテージのオメガ スピードマスタープロフェッショナルです。月に行った時計ということでムーンウオッチとも呼ばれます。1968年製で、いわゆる4thといわれるケースと、ダイヤルには立体的なアプライドのオメガマーク。この固体は、ちょうど過渡期に作られたもので、内蔵されているムーブは Cal.861です。このCal.861は、何度か改良を経て40年後の現在でもほぼ同じものが使われています。 40年以上前の時計なのですが、これは私の「実用時計」です。精度は+-10秒程度ですし、秒針停止機能はありませんが、分針をあわせるときに針が飛んだりはしません。水道でジャブジャブ洗うほどの防水性はありませんが、普段使い程度の防水性は今も確保されています。宇宙で使うためのNASAのテストに合格しただけあって、対衝撃性もあり、頑丈に作られています。スクリューバックの裏蓋の下にはムーブメントを守るためのインナーケースがあり、このため防磁性もある程度確保されています。Cal.861は、ほぼ現行ムーブメントと同じですから、万が一壊れたときのメンテナンスもまったく心配ありません。 ヴィンテージ時計=コレクション時計と思いがちですが、ヴィンテージ時計でも実用時計として十分使えるものもあります。
さてクオーツ時計と機械式時計の比較の続きです。精度、トルクとみてきましたが、今回はメンテナンスの差、オーバーホールについてです。 腕時計のオーバーホールの場合、おおよそ次の手順からなります。 外装チェック、洗浄 防水チェック、必要であればリューズ、パッキンなどの部品交換 ムーブメントの分解、洗浄、注油 この内、外装や防水のチェックについてはクオーツでも機械式でもそう手間は変わりません。大きく違うのはムーブメントの分解、洗浄、注油工程になります。部品数の多い機械式時計の場合は、この工程がそれなりに手間がかかります。機械式時計は、比較的大きなトルクで複数の歯車を駆動します。そこで、部品の摩耗対策が必須になります。このため、とくに摩耗が大きい歯車の軸には受け石と呼ばれるルビーを配置し、そこにオイルを塗布します。画像は1968年製造のオメガ861。裏蓋を開けたところから見えるルビーの位置には矢印を置いてます。画像で下のほうに見えるのがテンプで、これがオメガ861の場合、一秒あたり6振動、一分では360振動もします。 一方、クオーツ時計は、モーターで針を駆動し、そのトルクは機械式時計と比較すると弱いです。その上クオーツ時計は部品点数が少なく、機械式時計のテンプのようにせわしなく回転する部品はありません。クオーツ時計の場合、一番速く回転する部品は秒針で、1分で一回転します。機械式時計と比べると部品に与える負荷が非常に小さいのが分かります。 なお、クオーツ時計もたいていの場合受け石があります。これは一つのモーターで複数の針を駆動するからで、その場合、基準となるモーターの回転数を調整する歯車が必要になります。その歯車は、ある回転軸の回りを常に回転していますから、摩耗対策が必要であれば、そこにはルビーが置かれるでしょう。世界最初のクオーツ時計、アストロンは8石のムーブメントを搭載していました。 そして、受け石があるということは、クオーツ時計も分解、洗浄、注油というオーバーホールはしたほうがいいということになります。しかしながら、クオーツ時計の場合、部品の損耗が機械式時計よりは段違いに小さく、結果的に電池交換だけで10年とかは普通に動くことになります。ただしケースの防水性の劣化は、機械式時計、クオーツ共に変わりませんので、防水性が必要な時計は定期的にチェックしましょう。
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