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機械式時計はなぜ動くのか その15

機械式時計の精度について説明するための一つの概念、Q値についての考察を続ける。アカデミックなQ値のイメージはなんとなく分かっていただいたとしても、具体的な皮膚感覚においても、これが意外とマッチするのである。下の図が発振周波数、Q値、日差の例を併記した表である。 クオーツ時計の場合、発振周波数が機械式時計に比較して高いから精度がよいと喧伝されている。日差5秒の機械式時計に対して、日差1秒未満、月差15~25秒程度のクオーツ時計というのは納得できる範囲だろう。素晴しく精度が良いようにも思えてしまうが、周波数で比較すると、1万倍もの高い周波数に対して、その精度はたかだか10倍程度である。思ったほどよくもない気がしてしまう。 一方で発振周波数ではなく、Q値による比較を行うと、Q=300程度の機械式時計に対して、クオーツ時計はQ=3000程度、おおよそ10倍である。このくらいの精度の差が、実によく機械式時計の精度とクオーツ時計の精度の差を表わしているように見えてこないだろうか。 画像はオメガ・スピードマスタープロフェッショナル。最初に月に行った時計としても有名な時計である。

機械式時計のどこがいいのか? その13

さてクオーツ時計と機械式時計の比較の続きです。精度、トルクとみてきましたが、今回はメンテナンスの差、オーバーホールについてです。 腕時計のオーバーホールの場合、おおよそ次の手順からなります。 外装チェック、洗浄 防水チェック、必要であればリューズ、パッキンなどの部品交換 ムーブメントの分解、洗浄、注油 この内、外装や防水のチェックについてはクオーツでも機械式でもそう手間は変わりません。大きく違うのはムーブメントの分解、洗浄、注油工程になります。部品数の多い機械式時計の場合は、この工程がそれなりに手間がかかります。機械式時計は、比較的大きなトルクで複数の歯車を駆動します。そこで、部品の摩耗対策が必須になります。このため、とくに摩耗が大きい歯車の軸には受け石と呼ばれるルビーを配置し、そこにオイルを塗布します。画像は1968年製造のオメガ861。裏蓋を開けたところから見えるルビーの位置には矢印を置いてます。画像で下のほうに見えるのがテンプで、これがオメガ861の場合、一秒あたり6振動、一分では360振動もします。 一方、クオーツ時計は、モーターで針を駆動し、そのトルクは機械式時計と比較すると弱いです。その上クオーツ時計は部品点数が少なく、機械式時計のテンプのようにせわしなく回転する部品はありません。クオーツ時計の場合、一番速く回転する部品は秒針で、1分で一回転します。機械式時計と比べると部品に与える負荷が非常に小さいのが分かります。 なお、クオーツ時計もたいていの場合受け石があります。これは一つのモーターで複数の針を駆動するからで、その場合、基準となるモーターの回転数を調整する歯車が必要になります。その歯車は、ある回転軸の回りを常に回転していますから、摩耗対策が必要であれば、そこにはルビーが置かれるでしょう。世界最初のクオーツ時計、アストロンは8石のムーブメントを搭載していました。 そして、受け石があるということは、クオーツ時計も分解、洗浄、注油というオーバーホールはしたほうがいいということになります。しかしながら、クオーツ時計の場合、部品の損耗が機械式時計よりは段違いに小さく、結果的に電池交換だけで10年とかは普通に動くことになります。ただしケースの防水性の劣化は、機械式時計、クオーツ共に変わりませんので、防水性が必要な時計は定期的にチェックしましょう。

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