なぜ人は偽物を購入するのか、次に検証する購入のモチベーションは「本物の価格は高い」であった。 本当に「本物の価格は高い」のか、これが今回からの検証のテーマである。 まず前提条件だが、「高い」か「低い」かというのはほぼ100%主観的な判断である。その判断は人によって千差万別であり、比較対象の選択によって、どのようにも結論づけられる。そこで最初の取りかかりとして、日本国の公的な統計調査、消費者物価指数を一つの基準として取り上げたい。この指標は、年金の支給率の計算に使われ、日本銀行が金融制作における判断材料としても使う大変重要な指標である。調査の対象項目は、家計調査の結果、重要度が高いと結論づけられた項目であり、腕時計は、諸雑費、身の回り用品として調査項目に含まれている。まずはこの指標によって腕時計の価格の変遷をみてみよう。 上図が、1970年(昭和45年)から2018年(平成30年)までの48年間の調査結果(2015年基準)である。総合物価指数(図:青線)はこの期間でおおよそ3倍程度まで上がっている。比較のため自動車も抽出した(図:赤線)が、こちらは 1.6倍ほどに上昇している。その一方で腕時計の消費者物価指数はさほど変わっていない (図:黄線)。腕時計の価格は1970年から2018年までの48年間ほぼ一定であり、この間物価が3倍程度上昇したことを考えると、時計の価格感覚としては、おおよそ1/3 まで下落していると考えることができそうである。 今回の時計は、セイコーグランドクォーツ。グランドクォーツは、1975年(昭和50年)、機械式グランドセイコーの製造中止に伴ない導入された高級ラインである。月差5秒という高精度を誇り、10秒ごとの秒針停止機能(リューズを引くと、必ず秒針が00、10、20、30、40、50のどこかのインデックスで停止する)といった先進的機能を備えていた。この個体は、1976年製造の個体である。
一般に、機械式のトルクは大きいから太い針を駆動でき、結果的に視認性が良くなる、クオーツのトルクは小さいから針も細くなり、結果的に視認性が悪くなる、とよく言われる。この一般的な前提をもう一度検証してみたい。 一体全体、アナログクオーツ時計のトルクは本当に小さいのだろうか。Tictacでもザ・クロックハウスでもよいがカジュアルな時計店に行ってみると一見太い針に見えるデザインのクオーツ時計が所狭しと並んでいる。これでクオーツはトルクが小さいから針が細いと機械式時計の趣味の人に強弁されても、ちょっと納得できかねるのではないだろうか。写真は Casio社の G-shockの新製品である。十分以上太い針を駆動できているように思えてしまう。 アナログクオーツ時計の針を駆動するための駆動力に対する一番の制約条件は、針を回転させるために必要なモーターの消費電力にあった。アナログクオーツ時計は、モーターで消費される電力を減らすために、ごく微小な電流で動作する時計用のモーターを使用する。ではそのモーターを改善すればよいではないか。クオーツ時計は電子部品によって構成される。その電子部品を改善すればよいのである。これはその電子部品の製造者なら誰でも考えることで、実際、アナログクオーツ時計のムーブメントのトルクは大きく改善されている。 有名なところではグラントセイコーの9Fムーブメントは通常のクオーツの倍のトルクで駆動できると謳っている。それ以外の広く汎用で使われるムーブメントにおいても、例えばMiyotaのクオーツクロノグラフムーブメントは 1uN・m の分針を駆動できる。クロノグラフ秒針にいたっては 0.4uN・m である。同じくMiyotaの傑作ムーブメント 9015と比較してもそれなりのトルクになってきている。最早,すくなくとも一般的にクオーツのトルクが小さいとは言えなくなってきているのではないだろうか。
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