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本物のス丶メ その14

本物のコストは本当に高いのか。 前回、製造業の原価は意外と高そうだということを見た。では次に日本を代表する時計メーカーとして、セイコーの製造コストについて見てみよう。 2019年度の有価証券報告書によると以下である。 総売上高:  247,293 (百万円) 売上原価: 150,955 (百万円) 販売費および一般管理費: 86,943 (百万円) うち広告宣伝費 16,905 (百万円) 設備投資: 5,029 (百万円) 約2500億円の売上高に対して、工場を稼働させて原材料を加工し製品を製造するためのコスト、売上原価が約1500億円。販売にかかる一般管理費が約870億円、このうち広告宣伝費が170億円程度。設備投資が約50億円。前回のPanasonicの総売上高が8兆円だから、売上規模は大きく違うが、比較してみると興味深いことが分かる。 セイコーは。広告宣伝費の売上高に占める比率がPanasonicよりも著しく大きい 。同じ金額を売り上げるのに5倍以上の広告費をかけている。 原価の売上に対する比率は、セイコーが一割程度低い 。 Panasonicは、設備投資の総売上高に対する比率が高く、セイコーの二倍近い。 セイコーは、ウォッチ事業以外にも電子デバイス事業など他の事業も展開している。ウォッチ事業の売上は、5割強であるからあくまで総括的な傾向であるが、やはり贅沢ブランドを含む企業体は広告宣伝費が大きく、原価が低く、設備投資も若干低い傾向にありそうだということが分かるのではないだろうか。 今回の時計は、ホイヤーコルティナ。ホイヤー=ブライトリング連合による自動巻クロノグラフキャリバー、クロノマチックを搭載する1977年の作品だ。  

機械式時計はなぜ動くのか その17

Q値という「物理量」についての話を続ける。「物理量」とはそもそも人間が考えた仮説の一つであった。仮説は、汎用的な概念を含んだ仮説であればあるほど分野を超えて広く使われるようになる。ニュートンの「万有引力の法則」では、リンゴが落ちるときに働く力と、天体と天体との間に働く力とは同じ法則に従っていると説く。一見まったく違った現象に見えるそれらを汎用的な法則で説明したからこそニュートンは偉大であった。 Q値に戻る。この概念は、Valjoux 22 の初出と同じ1914年に提唱された。それ以来、分野を超えて振動現象の品質について広く使われる定義になっている。振動現象とは、ある一定期間内に繰り返される周期的な運動のことであり、ヒゲゼンマイの収縮運動は間違いなく振動現象である。そうなると、時計の場合もQ値は定義でき、実際に以下のように定義される。 Wはその振動現象を行っているシステム、ここではテンプに蓄えられるエネルギー、ΔWは一回の振動で失なわれる量である。 つまりは、一回テンプを動かして、それがどのくらい動き続けたかを観測できれば時計のQ値は実測できる。実際にテンプのみを取りだして、一回それを収縮させ、それが20秒間動き続けたとしよう。この場合 Q値はおおよそ300になる。5振動は 2.5Hzであるから一秒あたり2.5回往復運動をする。それが 20秒動作したということは 50回テンプが往復運動をしたということになる。ということは、一回の往復運動で1/50ずつエネルギーが失われ続けたということになるから、その往復回数に2πを乗算すればQ値は計算できる。 一方で例えば5振動の時計のテンプが2秒で止まってしまったとしよう。この場合Q値はおおよそ30になる。Q値が一桁違えば精度はおおよそ一桁変わってくると予測できた (機械式時計はなぜ動くのか その14)から、Q値が30の時計の日差が+-60秒程度だとすると、Q値が300の時計はおおよそ日差+-6秒程度に収まるであろうことが予想できる。もちろんQ値のみで日差は決まるわけではなくあくまで目安でしかないが、物理法則とはかくも素晴しく、我々の生活に予測を与えてくれるもののようである。 今週の時計は、「世界初の自動巻きクロノグラフ」の系統を汲むcal.12を搭載したホイヤーコルティナである。ホイヤーの70年代モデルの中ではあまり見かけないモデルだが、オクタゴンのフェイスやブレス一体型のデザインなど、1970年代の雰囲気がよく出ている時計だと思う。このモデルに関しては以下のリンクが詳しい。 ULTIMATE GUIDE TO HEUER CORTINA

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