ようやくQ値という物理量が時計に関係する量になってきた。テンプを取りだすのは時計師さんでなければ難しいが、手巻き時計を持っておられる方なら分かるであろう。止まってしまった手巻き時計を手に取るとしばらく秒針が動いていることがある。一回動きだしてしまえばそれは簡単には止まらずしばらく動いている。一回止まると電池を交換しないと動きださないクオーツ時計に慣れていると奇妙な現象だが、高精度な時計であればあるほどこの時間は長くなるはずである。つまり、Q値の高い時計であればあるほど、その一回の回転のロスは小さい。ということは一旦動いてしまえばその動き続ける時間は長くなる。 もちろんこの場合は一回動き出したテンプのトルクから秒針を含む輪列も駆動する。その分もテンプのエネルギーは消費されるから正確なQ値は算出できない。しかしながらいちおう参考までに手元にある時計でいくつか測ってみると、ナビタイマー806が30秒くらいは動いており、このウェブの表紙にもなっているVZSSは10分!くらいは動いていた。高精度を目指して作られた時計が今でも十分通用する精度で動作する傍証の一つといえるかもしれない。 さて高精度な機械式時計を作るためにはどうすればよかったか。トルクのロスをできるだけ抑えるため、歯車を磨く。テンプにひげぜんまいを使う。穴石をきちんと埋め込み、歯車がきちんと動作するようにする。これらが昔から機械式時計の作成者たちが連綿と行ってきたことである。これを行うことで機械式時計は十分な精度が出る。Q値の理論が提唱される以前から時計を作ってきた人たちは当然ながらそのことを知っていた。 実はその仕組みはおそろしく完成された仕組みだったのかもしれない。そして、そのことは現代の理論でも証明されているといえるのかもしれない。 今週の時計はブライトリングナビタイマー 806である。世界で最初に回転計算尺を装備したモデルである。電子式コンピュータなどない時代、当時は対数の計算に計算尺を用いていた。これより大分時代が下ったアポロ計画でも船内では計算尺を用いて計算が行なわれた。それが常に腕に装備されているとは、当時は本当に実用的な腕時計だったに違いない。 この稿は、一回これにて筆を置くこととしたい。
さて、次はブライトリングーホイヤー連合について紹介をしましょう。 ブライトリングーホイヤーは、時間の計時機能を装備した、クロノグラフを主力とする時計メーカーのなかでは本命でしょう。 ブライトリングは航空時計で有名です。初めて回転計算尺をベゼルに装備したクロノマット(1942)、それを航空時計に応用したナビタイマー(1952)はあまりに有名ですね。 一方、ホイヤーはレース界で有名でした。モナコやカレラ、オータビアなど有名ですね。ホイヤーはクロノグラフに注力するために50年代後半は通常の自動巻のラインを生産終了にしていました。 ところで、彼らは完全な競合会社でした。双方ともにクロノグラフを主力とするメーカーで、完全にラインアップが重なっています。その両者が手を組むことになるのは、やはり新製品開発のコストの問題でした。ブライトリングやホイヤーといえども、一社だけで数年はかかる新しい自動巻クロノグラフを支えるのは簡単ではなかったのです。 当時のジャック・ホイヤーはウィリー・ブライトリングにこう持ちかけたとされています。 「ホイヤーは、アメリカとイギリスで強い。しかしヨーロッパ大陸では弱い。ブライトリングはイタリアとフランスで強い。けれどもアメリカとイギリスではそう目立たない。両者ともに自動巻クロノグラフが必要だ、しかし、どちらとも一社だけで開発するのは難しい、ここで手を組むのは完璧なソリューションなのじゃないだろうか」 こうやってブライトリングーホイヤー連合が誕生しました。特筆すべきは、当初から彼らはターゲットのマーケットを明確に意識していたという点です。 写真は50年代後半のブライトリング ナビタイマー1st、ref.806です。
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