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機械式時計はなぜ動くのか その9

一般に、機械式のトルクは大きいから太い針を駆動でき、結果的に視認性が良くなる、クオーツのトルクは小さいから針も細くなり、結果的に視認性が悪くなる、とよく言われる。この一般的な前提をもう一度検証してみたい。 一体全体、アナログクオーツ時計のトルクは本当に小さいのだろうか。Tictacでもザ・クロックハウスでもよいがカジュアルな時計店に行ってみると一見太い針に見えるデザインのクオーツ時計が所狭しと並んでいる。これでクオーツはトルクが小さいから針が細いと機械式時計の趣味の人に強弁されても、ちょっと納得できかねるのではないだろうか。写真は Casio社の G-shockの新製品である。十分以上太い針を駆動できているように思えてしまう。 アナログクオーツ時計の針を駆動するための駆動力に対する一番の制約条件は、針を回転させるために必要なモーターの消費電力にあった。アナログクオーツ時計は、モーターで消費される電力を減らすために、ごく微小な電流で動作する時計用のモーターを使用する。ではそのモーターを改善すればよいではないか。クオーツ時計は電子部品によって構成される。その電子部品を改善すればよいのである。これはその電子部品の製造者なら誰でも考えることで、実際、アナログクオーツ時計のムーブメントのトルクは大きく改善されている。 有名なところではグラントセイコーの9Fムーブメントは通常のクオーツの倍のトルクで駆動できると謳っている。それ以外の広く汎用で使われるムーブメントにおいても、例えばMiyotaのクオーツクロノグラフムーブメントは 1uN・m の分針を駆動できる。クロノグラフ秒針にいたっては 0.4uN・m である。同じくMiyotaの傑作ムーブメント 9015と比較してもそれなりのトルクになってきている。最早,すくなくとも一般的にクオーツのトルクが小さいとは言えなくなってきているのではないだろうか。

機械式時計のどこがいいのか? その12

機械式時計のどこがいいのか? その12 クオーツ時計は、機械式時計と比較してトルクが弱く、針のデザインに制約があるという話でした。トルクという量は、回転軸からの距離と重さを掛けたものになります。時計でいえば、針が長ければ長いほど、重ければ重いほど、運針には大きなトルクが必要になります。ミヨタのムーブ同士の比較では、分針の運針トルクに3倍以上の差がありました。0.1g以下の針で3倍というのはかなり大きな差です。昨今のわりと大きめのクオーツ時計の針が視認性を確保できる範囲で薄い針を使ってあり、またできるだけ短い針を使うようにデザインされているのが分かってきたような気がします。 画像は セイコーブライツのエグゼクティブ電波ソーラーとアナンタのメカニカルクロノグラフです。クオーツの視認性も悪くはないものの、やはり針の存在感の違いは歴然としています。 ところで、トルクが弱いことは悪いことばかりではありません。機械式時計は、トルクが強いそのために機械の摩耗が激しく、またとくに摩耗する箇所にはその対策のためのルビー(石)が必要になります。定期的なオーバーホールは必須です。一方、弱いトルクで少ない部品を駆動するクオーツは、オーバーホールしなくても電池交換のみで10年使えているという例も少なくありません。 時折、機械式時計は電池を使わないからエコだという言い方をされます。しかし、これは機械式時計がきちんとメンテナンスされていることが前提です。メンテされていない機械式時計は、ただの鉄のかたまりです。電池さえ交換すれば使い続けられるクオーツ時計とどちらがエコか、きちんとメンテナンスすることを前提にしないと、いちがいには言えないような気もしてきます。

機械式時計のどこがいいのか? その11

さて、クオーツ時計のトルクが分かったところで、機械式時計のトルクとの比較をしましょう。今回もシチズンの子会社、ミヨタのムーブメントを参照します。取り上げるのは、Cal. 9015、ミヨタが30年ぶりに開発したシチズンの機械式時計のムーブメントです。広く使われているETA2824-2の置き換えとしても使えることをターゲットとしているようです。Cal.9015のムーブ径はETA2824-2と同じ25.6mm、厚さはすこし薄い3.9mm。42時間のパワーリザーブ、8振動、デイト、秒針停止機能と十分なスペックです。このムーブをチューンしたものは、ザ・シチズンの機械式時計にも用いられています。 Cal.9015 とETA2824-2との比較をまとめてみると以下になります。 さて、このCal.9015 の針を駆動するトルクに関する仕様は以下のようになっています。 これを見ますと、分針で1.25uN・mという駆動力が定義してあります。これはクオーツのOS-21(0.4uN・m)のトルクと比較すると3倍以上です。トルクが3倍ということは、長さが同じであれば3倍の重さの針、重さが同じであれば3倍の長さの針を使えるということになります。 画像はザ・シチズンNA0000-59Eです。やはり3倍のトルクで針を駆動できると、針の印象がかなり違うように見えます。

機械式時計のどこがいいのか? その10

さて、クオーツ時計もいろんな技術革新で「視認性」については良くなってきているということが分かってきました。遠くからパッと見て分からないような細かい仕上げを除けば、昨今のクオーツは視認性に関してかなり改善されているようです。 しかしながらいくら技術革新があるとはいえ、電池で駆動される以上、電池の持ちを優先して、針を駆動するトルクを小さくしなければならない、これは依然としてクオーツ時計の大きな制約条件でしょう。さてこのトルク、実際にどのくらい機械式時計と差があるんでしょう。これを比較するために、前回出てきたミヨタのムーブメントを見てみましょう。ブレラが使用しているミヨタのムーブメントはOS-21です。このムーブメントの仕様書には以下のように書かれています。 つまり、バランスできる針の重さは分針で 0.4uN・m となっています。すこし妙な単位がでてきましたね。これはトルクを表わす単位です。トルクって意外と説明が難しいのですが、ムーブメントを例えていえば、電動アシスト付き自転車でペダルを回すようなものと考えればある程度はあっているかもしれません。この時に重要なのは、クランクの長さがトルクに大きな影響を与えるということです。クランクが長いと軽い力でもペダルをらくらく漕げます。これはアシストモーター側からいうと、長いクランクをアシストするには大きな力(トルク)が必要になるということです。 0.4uN・m ではあまりに馴染みがない単位ですから、馴染みのある単位に置き換えましょう。これはおおよそ 4mgf・cm に相当します。つまり、1cmの針の先に 0.004g の重さ、または5mmの針であれば0.008gの重さがついていても駆動できます。時計の針ってとっても軽いんですね。

機械式時計のどこがいいのか? その9

さて、クオーツ時計と機械式時計との比較中でした。まずは、よく調整された機械式時計の精度はクオーツ時計と比較してもそれほど大きい差はない。時計雑誌にはよくクオーツのほうが振動数が高いから精度がいいと紋切り型に書いてありますが、いちがいにそういうことは言えなさそうだということが分かってきたのかと思います。 次に考えてみたいのが「視認性」です。電池で駆動するクオーツ時計は、電池を長持ちさせなければいけない。その結果、トルクを弱めにしなければいけなく、機械式時計のように太い針を運針させることが難しい。従って、視認性は悪くなることが多いという話でした。これは一般論としてよく言われますし、私もそう思い込んでいました。しかし、最近のファッション時計では45mmとかの大きいサイズもありますし、視認性のよいクオーツ時計もあるように思えます。 画像は、ブレラというイタリア製の時計です。機械式時計に詳しい人は、針の仕上げや文字盤の仕上げなど、いろんなことでまだまだだとおっしゃるでしょうけど、例えばケースの仕上げとかはそれなりによさそうだし、文字盤上に置かれた立体的なアプライドインデックスもいいように見えます。もちろん仕上げがそこそこいいということは、値段もそれなりで10万円弱の値札がついてますが、なにより、これはサイズが44mmとかなり大きく、このサイズでこの針の大きさだと「視認性」はそんなに悪くなさそうです。 クロノグラフでは例えばオバマ大統領の時計として有名はアナログクロノグラフなどもあります。中国製でムーブメントはシチズンの子会社ミヨタ製、サイズは41mmです。 次の画像はグランドセイコーSBGX067。ベーシックな年差クオーツモデルです。これになると文字盤の仕上げといい、針といい、一般的な機械式時計とほとんど遜色ないように見えます。ムーブメントはセイコー製9F62 。 なんだかクオーツ時計の視認性もそれなりにいいように思えてきました。

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