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機械式時計のどこがいいのか その36

Last updated on September 26th, 2022伝説的なデザイナー、ジェラルド・ジェンタとロイヤルオークについては、各所で様々に語られているが、次はロイヤルオークならびに高級時計を入手する際の注意点について稿を起こそう。 メンテナンスの必要性についてである。ロイヤルオークがロイヤルオークであり続けるためには、メンテナンスが不可欠である。ロイヤルオークのケースは、元来の特許のコンセプトとしては「簡単に組立てが可能な防水構造であり、いままでにない審美性を与える」となっている。そして以下がyoutubeにアップロードされている Audemars Piguet のロイヤルオーク エクストラシン のケーシング工程の動画である。 ここで注意されたいのは、たしかにロイヤルオークの特許のコンセプト同様、ケーシングそのものは比較的簡単なのかもしれないが、ベゼルと文字盤、ケースにさまざまな加工がなされていることである。ジェンタは、ケーシングは簡易な構造にしたかったかもしれないが、それはあくまで防水を達成するためであり、他の一切の高級時計としての仕様については妥協しなかった。薄型の追求のために採用されたムーブメント2121。いままでにないタペストリーダイヤル、極限までこだわったクリアランス。立体感を出すためのベゼルの磨き分け。 デザイナーは、プロダクトにコンセプトを与える。そのプロダクトがそのコンセプト通りに製造されるかどうかはメーカーの責任である。Audemars Piguetは、見事にジェンタのコンセプトに従ったプロダクトを産み出した。その結果、当然ながらそのプロダクトの生産に必要な工数は膨らみ、ロイヤルオークの価格にも反映されることとなる。ロイヤルオーク発表当時の価格は、ステンレススチールの時計としては破格の3300スイスフランであった。これは当時のPatek Philippeのゴールド製のドレスウォッチよりも高価でRolexのサブマリーナの4倍以上の価格であった。 その製品のメンテナンスが簡単にできるはずがない。ムーブメントのオーバーホールだけでも大変だが、それはできたとしても、きちんとした仕上げがなされないと、ロイヤルオークはもはやロイヤルオークではなくなる。一例を上げよう。簡単に見えるベゼル部分だけでさえ三種類の磨き分けがなされている。上面はサテン仕上げ、側面はポリッシュ仕上げ、そしてパッキンに接着する部分はもう一度サテン仕上げである。 高級時計はおおよそ、5年に一度はこのようなメンテナンスが必要になる。それは正規ディーラーで車を車検に出す程度と同等のコストがかかるということは頭に入れておくとよいかもしれない。またこのメンテナンス・コストはメーカーによって異なるから、時計を購入するときに詳細を確認するのがよいかもしれない。

機械式時計はなぜ動くのか その11

トルクに関して理解が進んだところで、次に進めていきたいのは、精度保証の仕組み、テンプの動きについてである。一般に、クオーツ時計は、原発振周波数が高いから機械式時計よりも精度が良いとよく言われる。本当にそうなのだろうか。まずここからはじめてみたい。 筆者はかつて、機械式時計はなぜ動くのか その1にて、 32KHzと 5Hz、6400倍もの差がありながら、クオーツおよび機械式時計の精度の差はおおよそ数十倍程度です。 と書いた。 たしかにクオーツ時計は精度が良いが、発振周波数の差と精度の差とを比較すると、発振周波数の差に比較して、機械式時計の精度は良すぎるように思えてしまう。 きちんと作られた機械式時計は、きちんと整備をすると、数十年前の時計でも日常使いできる精度で動作する。機械式時計の仕組みとは、実に、驚くほど完成された仕組みなのではないだろうか。 写真は、整備から上がったばかりのセイコー社のヴィンテージ時計、ロードマーベルである。防水が期待できないこの当時の時計を、この暑い最中、普通に着用して仕事で使っているが、日差+3秒、パワーリザーブ48時間で快適に時を刻み続けている。

機械式時計のどこがいいのか? その16

機械式時計は2、3万円という比較的手頃なモノから、1000万円以上という普通の人には非現実的なモノまで多種多様です。しかしながら、一つだけすべての機械式時計に共通することがあります。それは、時計は特別なものである、そういう時代に職人が一個一個手作りしていた時代のタイムピースを祖先として持つというところになります。 ここで一つ附言があります。パチ、または海賊版というのは、ここでは機械式時計とは扱いません。これは機械式時計に似てはいますが、まったく違うモノです。パチモノの祖先は、いわゆる絵画などの贋作というべきで、これは機械式時計のカテゴリーではありません。モノの制作動機がまったく違います。新しいモノを創るとき、例えば機械式時計の場合は精度を出そう、あるいは新しいコンセプトを世の中に問おうと思って造ります。価格帯が低い場合は、高価な場合と比較して制約条件が大きくなりますが、それでもその制約条件の中で、デザイナーやエンジニアたちは最善を尽します。一方、パチまたは海賊版と呼ばれるものは、すでに価値が高いとされるものを真似て人様の目をごまかそうと思って作られたものです。動機がいやしく、当然ながらメンテナンスのことなど考えてもいません。 69年当時1万5千円で売られていたホンモノのセイコー5は、40年後の今もメンテナンスされ、似たような価格帯で入手できます。一方、その倍以上の値札がつくこともあるパチモノは、基本的に使い捨てと思って間違いはないでしょう。もともと 「末永くメンテナンスして使ってもらおう」なんてことはまったく考えてないモノです。 今回の画像は、ロンジン最後の自社製ムーブメント、ツインバレルL990の裏蓋を開けたところです。薄型の自動巻、60年代当時、これはかなりのホットトピックでした。腕時計が特別なものであった時代、軍用時計やクロノグラフにはその機能上大振りなものがありましたが、やはり一般的なドレス時計としては薄型でした。自動巻の機械は、腕の振りでゼンマイを巻き上げるためのローターと巻上機構が必要になり、手巻きよりも厚みが増します。堅牢な機械を好んだロンジンは、60年代の薄型自動巻の開発競争には遅れをとっていましたが、最後にこのような優秀なムーブメントを発表します。歴史にifはありませんが、もし、これがもっと早く、60年代に出ていたら。。。と思ってしまうくらい素晴らしいムーブメントです。

機械式時計のどこがいいのか?その7

機械式時計と比較されるクオーツ時計についての続きです。クオーツ時計は、精度に優れ、耐衝撃性にも配慮でき、安価です。時間を知るための機械として、これらはとても大きなアドバンテージと思えます。 では、クオーツ時計に欠点はないのでしょうか?クオーツ時計といっても、人間が作った機械ですから当然制約があります。機械式時計の大きな制約がムーブメントにあったように、クオーツもその駆動部分に制約条件があるかもしれません。 まず、機械式時計はゼンマイを動力として動きますが、クオーツ時計は電気を動力源として動きます。機械式時計は基本的には毎日、動力源を巻きあげてくれるということを前提にすべての機構が設計されています。その一方でクオーツ時計は3年ほどは電池を取り換えなくても動くことを前提としています。ということは、クオーツ時計はできるだけ電池を長持ちさせるように、節約して使うように設計するのが大前提になっているということです。このため、大きな針をブン回すよりも、控え目な軽い針を一秒ごとに動かします。これは、デザインの上での大きな制約条件になりますし、あまりに小さな針にしてしまうと視認性の問題にもなってきます。 また、電気で動作するために、ウィークポイントは電気になります。つまり、雷などのサージ電気には弱いです。滅多にはないことですが、パイロットが飛行中に雷にあい、クオーツ時計が狂って使えなくなり、それ以来ブライトリングを持ち歩くようになった、という話を実際に聞いたことがあります。 最後に、メンテナンスの制約があります。クオーツ時計のムーブメントは大量生産の電子機器です。つまりは部品の保有年数は基本的には7年から10年という一般的な電子機器の基準になります。部品があればセイコーでも古い時計のメンテナンスは受け付けてくれますが基本は7年(グランドセイコー、クレドール、ガランテは10年)になります。これはきちんとした機械式時計のメーカーとは大きな違いです。例えばロレックスではおおよそ30年です。この年数は、あれだけ多量に機械式時計を生産する会社にしてはかなり誠実な年数に思えます。またブライトリングでは、1950年代の機械式時計のメンテナンスを受け付けてもらったことがあります。パテック、バセロン、オーデマピゲ、IWC、ロンジン、オメガなども同様の体制を整えています。費用はそれなりにかかりますが、古い時計でもメーカー修理に出すことができるというのは、その時計を使い続ける上での大きな安心材料といえそうです。 表にまとめてみます。ここで取り上げているのはあくまで代表的な例になります。時計はいろんな目的で作られます。よりよい精度の時計としてはクロノメータ規格、年差クオーツなどがありますし、ムーブメントとしては、機械式とクオーツのハイブリッド、キネティックやスプリングドライブなどもあります。部品点数では機能によってかなり変わってきます。クロノグラフだと300以上の部品を使うこともあります。ゼンマイの持続時間としては、7日巻きというのもありますし、最新のムーブメントでは巻上から3日持つ(70時間のパワーリザーブ)というのも増えています。

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