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機械式時計はなぜ動くのか? その1

今日から新シリーズを起してみます。まだまだ私には今一つ機械式時計の動く仕組みというのがよく分かっていないような気がしているのです。現在のゼンマイ式時計の仕組みは、ほぼ18世紀中頃に確立された仕組みと同じです。250年以上の前も仕組みなわけですが、これをうまく調整すれば一日+-5,6秒という驚異的な精度を叩き出します。この精度はちょっと良すぎではないでしょうか。 クオーツは32KHz、一秒間に32000振動もするから、機械式時計よりも圧倒的に精度がいい、とモノの書籍にはよく書いてあります。通常のクオーツ時計の精度は月に10〜20秒程度の誤差です。一方で機械式時計はハイビートと呼ばれるものでも10振動=5Hzでしかありません(時計の世界では、振動数という定義が少し違っています)。ところで、32KHzと 5Hz、6400倍もの差がありながら、クオーツおよび機械式時計の精度の差はおおよそ数十倍程度です。クオーツが悪いというより、機械式時計のほうが古い仕組みにも関わらず、どうも良すぎではないでしょうか? また薄い時計と厚い時計、時刻あわせの時の針飛びについても言及してきました。この使い勝手に大きく影響してくるのが、いわゆる二番車の配置なのですが、これを説明するためには、機械式時計の仕組みにもう少し言及したほうが分かりやすいようでもあります。 画像は1968年の手巻きスピードマスターとキャタピラブレス。キャタピラブレスと言われるものは、いわゆる巻きブレスと言われるタイプのブレスの一つです。無垢ではなく、板を曲げて作ってありますので、軽いです。軽いのはいいのですが、手巻きとはいえ時計本体が重いクロノグラフには、すこし華奢な感じも受けます。ゆるくブレスを巻くのがお好みの方には、ヘッドが時々つられるような感じを受けるでしょう。ただ個人的にはスピードマスタープロフェッショナルを一番格好よく見せるブレスと思っています。

機械式時計のどこがいいのか? その26

今回は、分針の針飛びの話を取り上げます。場合によってはかなり高価な機械式時計ですが、歯車の並びによってはこのような現象が見られます。 例に挙げるのは、チュードルの名作、クロノタイムです。ベースムーブメントはバルジュー7750です。信頼性の高いクロノグラフムーブメントで、ブライトリング、IWC、パネライなどベースムーブメントとしても広く使われています。このムーブメントはハック機能(秒針停止機能)があります。リューズを引くと9時位置のインダイヤルの秒針が停止します。 図はリューズを引いて秒針を停止し、分針をきちんと52分にあわせたところです。これは一度50分にあわせてから少し進めて52分にしています。 ここでリューズを戻してムーブメントを動かしていきましょう。以下の図は30秒経過したところです。分針がまったく動いていませんね。秒針は37秒なんですが、分針は依然として52分を指したままです。 そのまま時間の経過を待ちましょう。分針が53分丁度の時に、秒針は、30秒を指しています。つまり、最初にリューズを押しこんだときから、30秒ほど経過してから分針が動きはじめているということのようです。 これがバルジュー7750の特性です。私はバルジュー7750ベースのムーブメントをいくつか持っていますが、分針をきちんとあわせたいときは、分針を30秒ほど進めてからあわせています。 噛み合う歯車同士、歯車の噛み合うときの遊びからこのような現象が起きます。分針を運針する歯車、二番車がダイレクトに分針をドライブする場合、歯車の噛み合いの違いはありません。リューズで分針をあわせて、押しこむとそのままの状態で二番車は運針を開始します。 ところが歯車がセンター以外にある場合、センターにある分針運針用の歯車と、実際に分針をドライブする二番車は別の場所にあり、その二つの歯車を連結する歯車が必要になります。つまり、すくなくとも二か所で歯車と歯車とが噛み合います。そのため、その噛み合わせによっては、ある一定時間は分針が動作しないといったことがでてきます。 バルジュー7750などの自動巻クロノグラフもセンター付近が混雑するムーブメントです。そのため、このムーブメントでも分針をドライブする二番車はセンターからオフセットされ配置されています。そこでこのような動作が見られます。 このような動作はムーブメントによって違います。バルジュー7750の場合、分針を進み合わせ、例えば50分->52分とあわせたときにこのような動作が起きます。戻しあわせ、57分->52分のときには別の動作になります。バルジュー7750をお持ちの方はお試しください。なお、この戻し合わせ、ムーブメントによってはよくないとされていますので、くれぐれも自己責任でお願いいたします。(m_ _m)

機械式時計のどこがいいのか? その25

ムーブメントの話、続きます。APが採用したムーブメントは一番美しい自動巻の一つとされています。ではいったい、どこが一番美しいのでしょうか。コート・ド・ジュネーブやベルラージュ、部品の面取りといった仕上げはスイス時計産業の伝統的な仕上げです。もちろんAP2121の仕上げは素晴しいです。しかし、この仕上げ自体は、AP 2121 でなくても素晴らしい仕上げのものはあります。最近の時計では、ショパールL.U.C 1.96のとくに初期のムーブメントなどは素晴らしい仕上げですし、ETAのムーブメントでも上級品になるとかなりの仕上げが施されているものもあります。一番美しい自動巻の一つと言われているものが、仕上げの美しさだけというのでは、ちょっと消化不良ではないでしょうか。いったい、どこが一番美しいとされているのでしょう?時計のムーブメントの美しさの判定基準はどこにあるのでしょう? その一つには、ムーブメントの設計思想があるかもしれません。機械式時計のムーブメントは、機械部品で構成されます。出来上がりに個体差はあるにせよ、少なくとも1000個程度は量産されます。その、ある程度量産されるムーブメントの基本形はその設計思想によって規定されます。 ジャガールクルト920の設計思想は、薄型自動巻のための妥協を排した設計思想です。 では、ここでいう妥協とは何でしょう。ある仕様を満足しようとすると、ある部分を犠牲にしなければいけない。よくあるトレードオフの関係です。薄型という仕様を満足するためには、ムーブメントの設計では何が犠牲になるんでしょう? まず設計上、一番課題になるところを考えてみましょう。つまり、時計のムーブメントで一番厚みが出るのはどこでしょうか?それは、いうまでもなく中心部分ですね。少なくとも時針、分針の二本の針が運針しますので、必要な歯車が重なります。自動巻の場合は、さらにここに自動巻用の回転ローターの回転軸が配置されます。薄型のムーブメントを設計しようとする場合、まずはこの中心部分をどう薄く設計するのかというのが課題になります。 では、そんなに中心部分に歯車や回転軸が配置されるのが問題だったら、その配置をずらせばいいのではないでしょうか。つまり、以下のアプローチです。 分針をドライブする歯車(二番車)を、センターに置かずにオフセットさせる。 自動巻用のローターの回転軸を、センターに置かずにオフセットさせる(マイクロローター)。 これらは一見よさそうに見えますが、これらの選択肢には薄型の設計を容易にするというメリットの代わりにデメリットがあります。それぞれのデメリットは以下です。 リューズを引いて時刻あわせ後、リューズを戻す時に針飛びを起しやすい 自動巻用のローターの回転半径が小さくなり、自動巻の巻上効率が悪くなる ジャガールクルト920が設計された当時、これらの選択肢はすでにありました。しかし、この機械では、これらの選択肢をとっていません。つまり、二番車がセンターにあり、自動巻用のローターの回転軸もセンターにあります。しかもそれで薄型のムーブメントを実現するという選択肢を設計者は採用しました。つまり、上述のデメリットを嫌い、王道の設計で、薄型のムーブメントを設計するという選択を設計者は決断したことになります。 画像はロイヤルオークジャンボ5402の側面からです。厚さはわずか7mmです。

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