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本物のス丶メ その15

前回、前々回と日本の製造業のコストを見てきた。工場を稼働させ、原材料を最終製品にするコストはそう小さいものでもなかった。 今回は、Swatch groupの財務報告書を見てみよう。Swatchは、ブレゲ、オメガ、ロンジン、ティソといった時計業界の有名ブランドだけではく、ハリー・ウィンストンやカルバン・クラインといッた宝飾、ファッションブランドもその一員に数える一大企業である。 2019年度の報告書によると以下である。日本とは基準が違い、売上原価は記載されていないが、人件費と原材料費が記載されている。(1スイスフラン=112.2円換算) 総売上高: 924,864 (百万円) 営業利益: 114,780 (百万円) 原材料購入費: 179,520 (百万円) 人件費: 289,251 (百万円) その他の業務費用: 300,696(百万円) この内容からも比較してみると興味深いことが分かる。 セイコーの場合、原価の売上に対する比率は約6割であった。Swatchの場合、原材料購入費および人件費を合算して原価とすると、おおよそ5割となる。人件費には工場以外の人員も含まれているだろうから、おおよその目安として、Swatchの製造原価は、セイコーのそれよりも1割以上は低いと考えてもよいだろう。 Swatchは、その他の業務費用が著しく大きい。おそらくこの大部分が広告宣伝費用と思って間違いないだろう。セイコーの時計事業の売上は約1400億円であり、時計事業を含む全体の広告宣伝費に約170億円を計上している。仮にこの広告宣伝費がほとんど時計事業に使われているとすると、その割合は、売上の約1割に相当する金額である。Swatchの場合、その他の業務費用の割合が約3割にも達する。Swatchはオメガ、ロンジン、ハリー・ウィンストンといった一流ブランドをワールドワイドに展開しているから、広告宣伝費がセイコーよりも巨額を要するのは間違いない。 さて、今回の時計は、往時のOmegaのドレスウォッチ、DE VILLE である。シリアルからムーブメントは1969年製造と思われる。

本物のス丶メ その14

本物のコストは本当に高いのか。 前回、製造業の原価は意外と高そうだということを見た。では次に日本を代表する時計メーカーとして、セイコーの製造コストについて見てみよう。 2019年度の有価証券報告書によると以下である。 総売上高:  247,293 (百万円) 売上原価: 150,955 (百万円) 販売費および一般管理費: 86,943 (百万円) うち広告宣伝費 16,905 (百万円) 設備投資: 5,029 (百万円) 約2500億円の売上高に対して、工場を稼働させて原材料を加工し製品を製造するためのコスト、売上原価が約1500億円。販売にかかる一般管理費が約870億円、このうち広告宣伝費が170億円程度。設備投資が約50億円。前回のPanasonicの総売上高が8兆円だから、売上規模は大きく違うが、比較してみると興味深いことが分かる。 セイコーは。広告宣伝費の売上高に占める比率がPanasonicよりも著しく大きい 。同じ金額を売り上げるのに5倍以上の広告費をかけている。 原価の売上に対する比率は、セイコーが一割程度低い 。 Panasonicは、設備投資の総売上高に対する比率が高く、セイコーの二倍近い。 セイコーは、ウォッチ事業以外にも電子デバイス事業など他の事業も展開している。ウォッチ事業の売上は、5割強であるからあくまで総括的な傾向であるが、やはり贅沢ブランドを含む企業体は広告宣伝費が大きく、原価が低く、設備投資も若干低い傾向にありそうだということが分かるのではないだろうか。 今回の時計は、ホイヤーコルティナ。ホイヤー=ブライトリング連合による自動巻クロノグラフキャリバー、クロノマチックを搭載する1977年の作品だ。  

本物のス丶メ その13

この時計はコスパがいい、という言い方をすることがある。 このコストについてだが、時計の場合は、原材料費に加えてその加工のための費用が必要である。それ以外にも、工場の設備の維持・更新のための設備投資が必要になる。 ではそのコストは一体どのくらい必要なのだろうか。時計の例に入る前に、日本の製造業代表として、まずは Panasonic さんにご登場いただこう。2018年度の有価証券報告書によると以下である。 総売上高:  8,002,733 (百万円) 売上原価: 5,736,234 (百万円) 販売費および一般管理費: 1,939,467 (百万円) うち広告宣伝費 97,600 (百万円) 設備投資: 3005億円 上高8兆円に対して、工場を稼働させて製品を作るための原価が5兆7千億円。作った製品を販売するための営業、広告、間接部門にかかる費用が1兆9千億円。工場への設備投資が3005億円。さすがに日本を代表する製造業だけあって売上高もそれにかかる費用も桁が違うが、いずれにしても製造業の製造コストは決してそう低いものではないというのがお分かりいただけるのではないだろうか。 今回の時計はオメガスピードマスター MarkV。自動巻のオメガ1045を搭載したドイツモデルである。          

本物のス丶メ その12

さて、手間がかかっているから高いとされる贅沢ブランド品の製造コストはどのくらいと読みとれるのだろうか。 時計の製造メーカーは、製造業に分類される。その製造業としての必要なコストをここでは大きく以下に分類したい。 工場を維持、稼働させるためのコスト。原材料を購入して、その工場設備を稼働させれば製品が出来上がる。 出来上がったその製品を販売するための営業や広告宣伝、間接部門のコスト 次世代製品の研究開発コスト。次世代の製品こそがその企業の将来を決める。 工場への設備投資コスト。設備は老朽化する。設備投資の止まった工場に未来はない。 とくに大規模な製造設備を有するメーカーにとって、原材料費はその一部にすぎない。メーカーが、これらすべての投資を回収して、次世代製品のための研究開発を続けためには、現行製品の販売によって適正な利益を産み出す必要がある。 さて今回の時計はロンジンのヴィンテージ、ウルトラクロン。ロンジンは、スウォッチ・グループの一員として、良質かつリーズナブルな時計を市場に提供しているが、時計業界の中でも屈指の長い歴史を持つメーカーだ。本モデルには、クロノメーター規格の自社製ムーブメントが搭載されている。    

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