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機械式時計はなぜ動くのか その10

トルクに関してまとめよう。 そもそも、機械式時計はなぜトルクが大きくなければならないか。それは機械式時計が、その精度をテンプに頼っているからである。機械式時計の場合、主ゼンマイのトルクで最終的にはテンプまで回転させなければいけない。主ゼンマイの周波数(6時間で一回転)から2.5Hzまで増速する場合、54000倍もの増速である。この場合、テンプを回転させるために必要なトルクは、元の主ゼンマイのトルクに対して1/54000以下に減少する。そのトルクである程度の重さを持つテンプを回転させるのであるから、相当のトルクが主ゼンマイには必要となる。表示のための分針と時針とは、その主ゼンマイの回転数に近いところから動力をとっているから、テンプを回すトルクの数千倍のトルクを利用できる。その結果、相当程度に太くて重い視認性のよい針を回転させることができる。しかしながら、いくら機械式時計といっても秒針は細くて軽い。これはトルクが減少した歯車から動力をとらざるをえないからである。 一方で、クオーツ時計の精度は、水晶体の原発振周波数の精度による。液晶でもLEDでも好きな表示形態を選ぶことができる。トルクが必要になるのはアナログ表示、針を回転させたい場合のみとなる。発振周波数の伝達は電気信号で行なわれ、歯車が不要であるため、トルクの増大、減少といったことはない。さらには針を駆動する歯車比に関しても、機械式時計のような制約はない。電気信号で一回、一秒の振動数を作ってから減速して作るのが一般的な構造となるが、減速、増速は好きなように選ぶことができる。モーターの消費電力からくる制約さえ改善されればクオーツ時計のトルクが改善される余地は十分にあるといえるだろう。

機械式時計はなぜ動くのか その7

今回はトルクの重要性についてです。機械式時計はトルクがあるために大きな針を回すことができるということは聞かれたことがあるでしょう。トルクは重要そうだなぁとは思っても、しかしながら、ではその重要なトルクがあればあるほど高級というわけでもなく、どちらかというと高級時計の中には、ロイヤルオークジャンボなどのように比較的トルクが小さいものも多い。しかしながら、それら高級機の中ではロイヤルオークジャンボのトルクは大きいほうである、などと聞いてくると分けが分からなくなってきます。 そもそもトルクというファクターは、なぜ機械式時計で重要なのか。それは機械式時計がゼンマイで動作し、その動作を歯車で増速して伝えるからこそ、重要になってくるのです。ここに以下の点でトレードオフが出てきます。 ゼンマイの長さと動作時間: ゼンマイが解けていきながら動作する以上、ゼンマイの長さによる動作時間の制限がかならずあります。長く動作させたい場合には、トルクは小さくなります。 トルクの大きさ自体の制約: ゼンマイから見ると、ギア比はかならず増速になります。増速の場合、伝えられるトルクは原理的にそこで減少します。車の場合、ギア比がLの場合はトルクが大きいですが、5速、6速の場合はトルクは小さくなります。ギア比を増速すればするほどトルクは小さくなるのです。車の場合はもともとかなり回転数の高いものを減速して巨大な車体を動作させるトルクを得るのですが、時計の場合はもともと一番遅いゼンマイの回転数から増速して脱進機の速度にしていくので、必ず主ゼンマイのトルクから減少します。 精度と脱進機の速度: 高精度を求めれば求めるほど、脱進機の速度は上がる傾向にあります。ヴィンテージ時計は5.5振動または6振動、近年では多くの時計が8振動。場合によっては10振動というものまであります。脱進機の速度を上げれば精度を得やすくなりますが、その分増速の度合いも増えますので、トルクもより必要になります。 結局、ゼンマイをできるだけ消費せずに、しかも大きな針を動作させたい場合はゼンマイを格納する箱が大きくなってしまいます。そうなってしまってはとくにドレスウォッチに代表とされる高級時計とはいえなくなってしまいます。 そこで、限られた体積に含まれるゼンマイのトルクを有効活用するために、伝達ロスをできるだけ減らすために、高級時計の歯車は丁寧に磨いてありますし、ゼンマイの体積とトルクによって動作できる針および機能のバランスを巧みにとってあるのです。

機械式時計はなぜ動くのか? その5

では、いよいよ機械式時計の仕組みに行きたいと思います。これが私の思う機械式時計のモデルです。クオーツと比較して、仕組みが複雑になっているのが図からも分かるかもしれません。 この歯車の比は、時計三昧さんのウェブページを参考にさせていただいております。いつもどうもありがとうございます。 クオーツ時計と大きく違うところは以下の三点になるかと思います。 動力源が一体になっている。クオーツの場合は、電池という動力源が、振動数を変換する電子回路を駆動していました。機械式時計の動力源は、香箱のゼンマイです。クオーツ時計と違い、その駆動力は振動数を変化させると同時にダイレクトに歯車で次の歯車を駆動します。 クオーツと違い「増速」になっている。クオーツの場合は、もとが32768Hzという非常に速い振動を遅くすることで、秒針、分針、時針を作っていました。一方機械式時計では、遅い香箱の回転から、分針、秒針を作ります。 フィードバックループが形成されている。クオーツの場合は、元の速い発振周波数を単純に分割することで所望の時間単位を作ります。一方、ゼンマイ時計の場合は、テンプの速度にあわせて、ゼンマイの解ける速度を調整します。一番最後の三角印の部分ですね。テンプの速度にあわせて、ガンギ車の速度が調整されます。 機械式時計は、動力源と速度調整を一体で行う仕組みを採用しているがために、設計者からうすると、ここが最大の制約条件であり、面白味でもあるんじゃないでしょうか。

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