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機械式時計はなぜ動くのか? その21

デファイ・ラボの「ヒゲゼンマイ」 今週は、心臓部の動作についての解析といきたい。念のためだが、これはあくまで個人の趣味の範囲での推定である。もちろん間違いを含む可能性もある。これは違うのでは?もっとこう考えるべきでは、などアドバイスがあれば、ぜひご指摘いただければ幸いである。 それではまず最初に物体が振動を繰り返すための条件を考えよう。例えば分かりやすい例として振り子を考える。一点につるされたヒモの先に重りをつけ、重りに力を加える。これによって、ある一定周期の往復運動を行わせることができる。このことを振動という。動きが小さくなってきたら、重りをまた揺らせばよい。 つまり、ある物体が振動を行うためには、動くためのスペースおよび稼動する部分の自由度との二つがまず必要になる。いくら振り子といっても、ヒモの接続部に稼動の自由度がなく、接着剤で根本を固められていては振動はできない。動くことができる自由度が必須である。 機械式時計のヒゲゼンマイの動きは収縮である。ヒゲゼンマイは、ヒゲゼンマイに許されたスペースを使って、収縮を繰り返す。その自由度はヒゲゼンマイに接続されたテンワの回転角度、振り角で表わされる。通常は300度程度とされるこの振り角だが、これを0度に固定されてしまうと機械式時計は時を刻むことはできない。 では、このデファイ・ラボのシステム、これはいったいどこが振動しているだろうか、またその稼動のための自由度はどこにあるのだろうか。振り子やヒゲゼンマイの様な稼動箇所はないように見える。第一、この「ヒゲゼンマイ」、まったくゼンマイのような形状をしていない、ただの板状である。その秘密を解く鍵は、先のプレゼンテーションのこのページにある。 この図は何を意味しているのだろうか。筆者の考えは、それなりの大きさの一組の物体を、これもまた一組のヒモで接続することで振動を続けることができるというプレゼンテーションである。一組の物体の片方は固定されている。ヒモによって接続された物体のもう片方は振り子の重りに相当し、ある一定の自由度を持って稼動する。ヒモは平行につないでもいいし、違う場所に接続してもよい。その接続されたヒモに与えられた範囲の自由度で振動を繰り返す。このヒモに相当する部分、直線だけではなく、たわみももって一定周期で揺れているのが分かる。その振動はゼンマイとは違うが、一定のリズムを刻んでおり、しかもこの動きは、ある一方向にねじれるとその反対に戻ろうとする力も持っている。ということは、このサイズさえ小さくできればヒゲゼンマイの代用品として使えるのではないだろうか。 この一組の物体だが、上の物体は固定されており、動いていないから長方形である必然性はない。片方の振り子の重りに相当する物体を稼働さえできれば、丸でも三角でも分割されていてもその形状は自由である。また、この物体の上下の位置関係だが、上下にある必要さえもない。その稼動の自由度さえ確保されていれば、一組のヒモは右端と左端に接続されてもよい。このプレゼンテーションではかなり大きな物体をヒモでつないでいるから、上下でなければなかなか動作は難しいだろうが、小さく軽い物体をバネ状の金属で接続すれば横に位置していても問題なさそうである。 ここで先の図をよく見ていただきたい。接続しているヒモを左右に展開できそうではないか。 これがこの発振子の中心部分である。この部分にトルクを与えることにより、ある一定周期の運動を繰り返す。この場合、一組のヒモで接続された物体の振動になるから、ヒゲゼンマイのような大きな角度の振動はできない。だが、+-6度程度の角度の運動であれば「ヒゲゼンマイ」のたわみによって可能であり、それを一定周期で続けることができる。デファイ・ラボのシステムではこの現象を利用していると筆者は考えるのだが、いかがであろうか。

機械式時計はなぜ動くのか? その3

表紙の写真を替えてみました。背景はクロノス誌。時計はオーデマピゲ VZSSc です。VZSSc は、クロノメータ規格のムーブメントを使った、かつてのオーデマピゲ渾身のドレスウォッチです。パテックの96をキングとすると、このVZSSはクィーンと個人的には思っています。 さてさて、調子に乗って参りましょう。 理系の大学一年生といって恐れることはありません。もっとも、私らのころと違って最近の大学生はまじめに授業に出席するようですから、我々のころよりも遥かにレベルが上がっているかもしれませんが、まあそのようなレベルの話をしたいというだけで、数式はできるだけ使わないつもりですのでご安心ください。 まずは腕時計の動く仕組みの私なりの解釈です。基準として、ありふれたクォーツ時計を例にします。クォーツ時計はごく簡単です。クォーツ時計はどうやって一秒を作るのでしょう?元になるのは、水晶です。この水晶(クォーツ)が32KHzの基準周波数で発振します。32KHzとよく言われますが、実は32768Hzです。一秒間に32768回、振動します。振動というのは「波」とよく言われます。ただ、波と言われる場合は、振動が一定方向に進む場合です。ある一定箇所で、振動する場合は、回転という形になります。たとえば、一秒間に自転車を32768回漕ぐのも、32768振動といってここでは差し支えないことにします。時計のヒゲゼンマイも振動、といわれますよね。 なぜ簡単なのか。水晶は電気を与えるとある一定振動で発振するからです。この場合一秒間に32768回振動しますが、それを32768回数えることができれば、それが一秒ですよね。一秒ができればあとはしめたものです。それを60回数えたら一分、一分を60回数えると一時間です。つまり、32768を数える機械と、60を数える機械が二つあれば時計はできてしまいます。もちろんあとは表示とかケースとかいろいろ必要ですが、それは必要に応じてなんとでもなるとすれば、心臓部は以下の4つでできてしまいます。 1. 水晶 2. 水晶に与える電圧 3. 32678を数える機械 4. 60を数える機械 x 2 どうです。簡単でしょう。これ、めっちゃ簡単ですので、その気になれば、秋葉原でも日本橋でもキットを組みたてることも可能ですから、ぜひお試しいただければと思います。部品屋さんで、32KHz発振のクリスタルください、と言えば、一個30円程度で入手できます。

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