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機械式時計はなぜ動くのか? その3

表紙の写真を替えてみました。背景はクロノス誌。時計はオーデマピゲ VZSSc です。VZSSc は、クロノメータ規格のムーブメントを使った、かつてのオーデマピゲ渾身のドレスウォッチです。パテックの96をキングとすると、このVZSSはクィーンと個人的には思っています。 さてさて、調子に乗って参りましょう。 理系の大学一年生といって恐れることはありません。もっとも、私らのころと違って最近の大学生はまじめに授業に出席するようですから、我々のころよりも遥かにレベルが上がっているかもしれませんが、まあそのようなレベルの話をしたいというだけで、数式はできるだけ使わないつもりですのでご安心ください。 まずは腕時計の動く仕組みの私なりの解釈です。基準として、ありふれたクォーツ時計を例にします。クォーツ時計はごく簡単です。クォーツ時計はどうやって一秒を作るのでしょう?元になるのは、水晶です。この水晶(クォーツ)が32KHzの基準周波数で発振します。32KHzとよく言われますが、実は32768Hzです。一秒間に32768回、振動します。振動というのは「波」とよく言われます。ただ、波と言われる場合は、振動が一定方向に進む場合です。ある一定箇所で、振動する場合は、回転という形になります。たとえば、一秒間に自転車を32768回漕ぐのも、32768振動といってここでは差し支えないことにします。時計のヒゲゼンマイも振動、といわれますよね。 なぜ簡単なのか。水晶は電気を与えるとある一定振動で発振するからです。この場合一秒間に32768回振動しますが、それを32768回数えることができれば、それが一秒ですよね。一秒ができればあとはしめたものです。それを60回数えたら一分、一分を60回数えると一時間です。つまり、32768を数える機械と、60を数える機械が二つあれば時計はできてしまいます。もちろんあとは表示とかケースとかいろいろ必要ですが、それは必要に応じてなんとでもなるとすれば、心臓部は以下の4つでできてしまいます。 1. 水晶 2. 水晶に与える電圧 3. 32678を数える機械 4. 60を数える機械 x 2 どうです。簡単でしょう。これ、めっちゃ簡単ですので、その気になれば、秋葉原でも日本橋でもキットを組みたてることも可能ですから、ぜひお試しいただければと思います。部品屋さんで、32KHz発振のクリスタルください、と言えば、一個30円程度で入手できます。

機械式時計のどこがいいのか? その6

機械式時計の位置づけ、構成要素、工業製品としてのデザイン上の制約、幅広い製品ラインアップまでを駆け足で見てきました。そういう、ある制約に基づいて作られた工業製品、機械式時計。そういう製品のどこがいいんでしょうか?それをもう一度検討してみます。 まず、いい、悪いを決めるというのは、簡単な話ではないです。いい、悪いというのは絶対的な判断基準ではなく、相対的な価値観です。AはBと比較していい、ということはいえますが、Aは絶対的にいい、Bは絶対的に悪い、ということはできません。 モノの価値を決めるのは人間ですから、ある人が「これはいい」といえば、それはそれでいいモノである、といえます。判断基準となる好みは人によって千差万別です。ロレックス デイトナがいいとおっしゃる方もいらっしゃるでしょうし、パテックフィリップの名作Ref.96がお好きな方もいらっしゃるでしょう。また、セイコー5がいいという方もおられるでしょう。 次に、いい、悪いの比較対象です。現代のわれわれはきっと「機械式時計」という場合、比較対象としてクォーツ時計を思い浮べると思います。「時間を知るだけだったら、ケータイでいいじゃん」「クォーツが正確だし、わざわざゼンマイ巻かなくていいし、なんでローテクの機械式時計?」まったくおっしゃる通りです。そこで、少しクオーツ時計について見てみることにします。 クオーツ時計は、一日に10秒程度は誤差がある機械式時計と違って、その誤差は一カ月で10秒程度におさまります。ざっと30倍は精度がいいことになります。また耐衝撃性も高いです。機械式時計は、テンプが一秒間に数回の往復運動をすることで一定の時間を刻みます。この部分が、どうしても衝撃に対しては弱くなります。クオーツ時計の場合、一定クロックを生成するのは水晶の固体振動子になりますので、衝撃に対して強くできます。そしてクオーツ時計は電子機器ですので、部品点数は機械式時計に対して少なくできます。100以上の部品を必要とする機械式時計に対して、おおよそ約半分の部品数で構成されます。しかも、電池式ですからいちいちゼンマイを巻き上げなくても、使いたいときに使えます。精度はいい、衝撃にも強い、使い勝手はいい、しかも電子機器ですから安価です。ここまで揃っている時計があるのに、なぜ機械式時計がいるんでしょうか。 実際にクオーツ腕時計の発明の結果、1970年代には機械式時計は絶滅寸前まで追い込まれてしまいます。1969年、ゼニスは、自動巻きクロノグラフとして有名なエルプリメロを発表しますが、そのわずか3年後には、アメリカのラジオメーカーに買収され、機械式時計の生産中止を言いわたされることになってしまいます。

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