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機械式時計はなぜ動くのか? その16

さてQ値とは、ネットワークの損失を説明するために電気工学で導入された「物理量」であった。それがなぜ機械式時計に関係あるのだろうか。そのことに辿りつく前に、今回は、前提として一般的な「物理量」という定義について稿を割きたい。 物理量とは、ある現象を説明するために人間が仮定した量(はかり)のことである。例えば「万有引力の法則」を説明する一つの物差しとして、代表的な物理量の一つである 重力加速度(G)が用いられる。 この法則の場合、リンゴが落ちるのを見て物理法則をニュートンが「発見」したとされている。しかし、リンゴでもナシでも鉄球でもよいが、モノが上から下に落ちるのは、石器時代でも皆が認識していたのは間違いない。ニュートンが偉大だとされているのは、そこに汎用的な物理法則を見い出したことによる。曰く、重力の大きさは距離の二乗に反比例し、二つの物質の質量の積に比例する。この法則はどんな物質にも作用する、地球とリンゴとの間に作用している力は地球と月との間にも作用する。そして地球上の物体については 重力加速度(G)という物理量を仮定でき、月の場合にこの物理量を定義すると、地球に比べておおおよそ1/6の値となる。この仮定は、様々な現象をよく説明できるため、現代では当たり前のこととして広く受け入れられている。 ところでこの「現代では当たり前」の物理法則だが、その認定にはしばしば大きな議論がなされてきた。物理法則というものは、そもそもが人間が作った仮説の一つである。厳密な数学上の証明とは違い、その性質上100%の証明は不可能である。ある法則を仮定した場合に、いろいろな現象がうまく説明できるという帰納的推論を提唱し、追従する実験によって演繹的に確かめられ、議論の結果「その説はおおむね正しい」と多数に認定されるというプロセスを必要とする。今では常識となっている一般的な法則についても、この認定プロセスに多年の議論がなされている例は数多い。天動説に対して地動説を唱え、「それでも地球はまわっている」と言ったとされているガリレオ・ガリレイの話はあまりに有名だが、中学生で習うオームの法則(電圧=抵抗×電流)でさえも、数十年ものあいだ「科学的事実」とは認められていなかった。 さて「物理量」の話が長くなった。次回はQ値という物理量について見てみることににしたい。 今週の時計もオメガ・スピードマスター・プロフェッショナルである。先週との違いがお分かりだろうか?

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