本稿は、以下の2009年に行なわれたジェラルド・ジェンタへのインタビュー記事の翻訳です。ジェンタは2011年に亡くなっていますから、このインタビューは、ジェンタの晩年の貴重なインタビューだと思えます。
針飛びの話続きます。汎用機で使われるバルジュー7750ベースのムーブメントでも、高級機によく使わえれるフレデリック・ピゲ(FP)1185でも現象は違えど、分針をあわせるときに気をつかう、針飛びという現象が起きることがあります。 下世話な話ですが、バルジュー7750は、「汎用機」とはいっても定価でいうと最低でも20万円くらいではないでしょうか。高級機では50万円以上はします。フレデリック・ピゲ製のFP1185を採用している高級クロノグラフの場合、ほとんどの定価は100万円以上です。ちなみにFP1185を採用しているメーカーは、ブルガリ以外にも、ヴァシュロン・コンスタンタン、オーデマ・ピゲ、ブレゲ、カルティエ、ブランパン、など、錚々たるものです。 バルジュー7750とフレデリック・ピゲ1185との大きな違いは以下になります。 1. バルジュー7750 … 設計のプライオリティは、信頼性、メンテナンス性の高いクロノグラフ。薄さおよび操作感は対象外です。 2. フレデリック・ピゲ1185 … 設計のプライオリティは、信頼性もさることながら、薄さ及び操作感、つまり高級機です。 優秀な設計者が、初期の設計目標を達成するのはよくあることです。しかし、それがその初期の設計目標を達成し、そのマーケットでその地位を確立しつづけるためには、その初期設計が優秀であると同時に、その設計をたえまなく改善させるモチベーションが必要です。 スイス時計産業にはその仕組みがあります。優秀な設計のムーブメントは、いろんなメーカーの時計で使われ、そのフィードバックによって継続的に改善されていきます。バルジュー7750でいえば、(筆者が所持したことがある時計のなかでは)ブライトリング、ロレックス、IWCによるチューンは群を抜いて良好です。フレデリック・ピゲ1185はもともと高級機向けですから、どこのメーカーによる時計でも高級機ですが、各メーカーからのフィードバックによって、その地位を確立し続けています。 裏を返せば、このことは、10年、20年というスパンで、信頼性のある機械式時計のムーブメントを設計することがどんなに難しいかということを物語っているともいえるのではないでしょうか。
実用時計の続きです。実用時計とコレクション時計とを分けるものは何でしょうか?現代社会で実用時計とされる条件をいくつか挙げてみましょう。 防水性 … 日常生活防水で普段は問題ないでしょう。しかし夏は水道の水でジャブジャブ洗いたくなります。また夏場の遊園地で霧状の水をかけられることもありますが、あれってけっこう危険かもしれません。水が水蒸気になると、わずかな隙間からでも侵入しやすくなります。 対衝撃性 … 衝撃に弱いムーブメントですと、スポーツの時には外すなど、気を使って取り扱うのが望ましいです。 精度 … 少なくとも日差+-30秒以内であって欲しいです。+-5秒以内だと素晴しいです。 針あわせの容易さ … 秒針停止機能があれば、分針と秒針とをきっちりあわせられます。また、リューズを押し込んで分針をセットするときに針飛びをしないのも大事です。これで針飛びする時計は意外とあります。 防磁性 … スマートフォンやPC、TVなど電気製品があふれる現代では、ある程度はもはや仕方がありませんが、防磁を考えている時計であればある程度は防げます。 メンテナンス性 … 壊れたときに修理してくれるところがあるのかどうか。また傷つけてしまったときも、ケースを磨くことができるのかどうか。一般的にドレス時計は薄型で仕上げがいいので、キズには弱いです。 携帯性 … 大きくて厚い時計ってかっこいいですが、携帯性はあまりよくないです。 所有感 … いつも身につけているものですから、持っていて満足感がある時計であって欲しいです。 例えばロレックス、オメガ、ブライトリング、IWC、ロンジンあたりであれば、上の条件はある程度満たされるでしょう。中でもロレックスは実用時計最高峰と言われるだけあって、これらの条件のほとんどを満たします。ところで一方、パテックフィリップやオーデマピゲ、ヴァシュロン・コンスタンタンなどの雲上時計と称される時計になってくると、日常生活防水の薄型ドレス時計や繊細なムーブを搭載しているスポーツ時計も出てきます。 どちらがいいということはありません。最終的にはライフスタイルと好みになってくると思います。夏場に遊園地にいったりプールで泳いだりするときに機械式時計をつけるかつけないかはお好みですし、そもそも遊園地なんていかないという人もいらっしゃると思います。 画像は、ヴィンテージのオメガ スピードマスタープロフェッショナルです。月に行った時計ということでムーンウオッチとも呼ばれます。1968年製で、いわゆる4thといわれるケースと、ダイヤルには立体的なアプライドのオメガマーク。この固体は、ちょうど過渡期に作られたもので、内蔵されているムーブは Cal.861です。このCal.861は、何度か改良を経て40年後の現在でもほぼ同じものが使われています。 40年以上前の時計なのですが、これは私の「実用時計」です。精度は+-10秒程度ですし、秒針停止機能はありませんが、分針をあわせるときに針が飛んだりはしません。水道でジャブジャブ洗うほどの防水性はありませんが、普段使い程度の防水性は今も確保されています。宇宙で使うためのNASAのテストに合格しただけあって、対衝撃性もあり、頑丈に作られています。スクリューバックの裏蓋の下にはムーブメントを守るためのインナーケースがあり、このため防磁性もある程度確保されています。Cal.861は、ほぼ現行ムーブメントと同じですから、万が一壊れたときのメンテナンスもまったく心配ありません。 ヴィンテージ時計=コレクション時計と思いがちですが、ヴィンテージ時計でも実用時計として十分使えるものもあります。
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