腕時計とそれを取りまく世界 Since Apr 2012

Tag PPM

機械式時計のどこがいいのか?その8

一般的な機械式時計とクオーツ時計の比較をしましたが、もうちょっと掘り下げた比較をしてみましょう。まずは時計に求められる大事な機能、「精度」です。よく時計雑誌には、クオーツ時計は、一秒あたりの発振周波数が高いから高精度、と書いてありますよね。これって本当に正しいんでしょうか? クオーツ時計の用いる水晶振動子の基準周波数はおおよそ3万2千振動です。機械式時計は、高振動とされるエルプリメロでもテンプは10振動しかしません。これって、ものすごい差ですよね。32000円あれば、10円のチロルチョコが3200個買えます。周波数が高いから高精度というのなら、ふつうのクオーツ時計で機械式時計の3200倍は高精度であって欲しいです。でも実際には、機械式時計の一日あたりの誤差を10秒、クオーツ時計の誤差をおおよそ一ヶ月あたり10秒として比較すると、たかだか30倍でしかありません。期待した精度の1/100です。チロルチョコが3000個買えると思っていると、30個しか買えなかったというのではなんとなく腑に落ちません。 気になってきましたので、基準周波数を発生させる水晶振動子の仕様を見てみましょう。これは、ケータイなどに使われる比較的高精度のクオーツ振動子のスペックです。 Frequency toleranceというのが発振周波数がどの程度安定しているのかという仕様になります。PPMというのは、最近では千葉の断水のときにも出てきました。ホルムアルデヒドなどの検出単位にも使われています。「100万分の1」= 0.0001% のことです。つまりこの振動子は、32000Hz+-0.002%の精度で安定しているということになります。こう書くと、なんだかすごくいいモノのような気がしますが、実はそうでもありません。この精度だと、一日あたり+-1.7秒、一ヶ月では+-51秒もの誤差が出てきます。 そしてこの精度が、量販されている電波置き時計の精度になります。説明書には、電波を受信しないときは平均月差+-30秒と書いてあると思います。これがおおよそ20PPMのクオーツ振動子の未調整の精度です。一方で一般的なクオーツ腕時計の精度はおおよそ月差+-15秒です。これは実は調整済みの精度ということになります。 さらに精度を高めたいときは、水晶の発振周波数の温度特性を調整します。代表的な温度特性を以下に示します。室温の20~30度ではほぼフラットですが、10度になると0.8秒、0度になると2.2秒遅れがでてきます。セイコーの年差クオーツ、ブライトリングでいうスーパークオーツはこの温度特性も調整します。この結果、年差クオーツで+-10秒(0.3PPM)、スーパークオーツで+-15秒(0.5PPM)という精度を実現しています。

© 2025 Wristwatchな世界 — Powered by WordPress

Theme by Anders NorenUp ↑